意外にも楽観ムード漂う!? マクロ視点で読み解く米国小売市場の実像

文:岩田 太郎(在米ジャーナリスト)
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2025年、米国小売業は第2次トランプ政権の発足で“二重のショック”に見舞われた。1つは主要輸入国への高関税措置、もう1つは米消費者の景況感の悪化だ。トランプ政権による朝令暮改の政策変更や、小売業界に対する理不尽とも思える要求も追い打ちをかける。

そうした中で進む各社の決算発表を見ると、「勝ち組」と「負け組」が鮮明になりつつある。小売各社は逆境にどう立ち向かうのか。戦略を読み解く。

不透明な経済政策で冷え込む消費者マインド

 ドナルド・トランプ大統領は5月17日、小売最大手のウォルマート(Walmart)が関税引き上げを受けて一部商品の値上げを示唆したことに対し、ソーシャルメディア上で強く反発した。「ウォルマートと中国が“関税を飲み込むべき”であり、消費者に負担をかけてはならない。私も顧客も注視しているぞ!!!」と投稿し、公然と企業姿勢への圧力をかけた。

 これに先立つ5月15日、ウォルマートは25年度第1四半期決算を発表。対前年同期比で増収増益となり、好調だ。しかし同日、同社のジョン・レイニーCFO(最高財務責任者)は米経済専門局CNBCの取材に対し「今回の関税引き上げは規模が大きすぎ、小売側で吸収しきれる水準ではない」と述べ、価格転嫁は避けがたいとの見解を示した。

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第2次トランプ政権の発足で、主要輸入国への高関税措置、米消費者の景況感の悪化と“二重のショック”に見舞われる米国小売業。その戦略を読み解く(i-stock/TrongNguyen)

 その後、スコット・ベッセント財務長官は5月18日、ウォルマートの値上げの意向について、「同社の発言は最悪のシナリオを想定したものだが、実際には関税分の一部を自社で吸収し、残りを段階的に消費者に転嫁する可能性が高い」と発言。トランプ大統領がソーシャルメディア上で見せた物価統制的な姿勢とは一線を画す、より現実的かつ柔軟な見解を述べた。こうした発言を受け、小売業界では「どこまで値上げが許容されるのか」が喫緊の関心事となっている。

 米小売各社を取り巻く課題は関税や政権からの圧力にとどまらない。景気減速の兆しを背景に消費者マインドが冷え込み、小売業全体に重くのしかかっている。

 米民間経済調査機関である全米産業審議会が発表した24年4月の消費者信頼感指数()は86.0(対前月比7.9ポイント減)となった。これは第1次トランプ政権末期の20年5月以来、約4年ぶりの低水準だ。背景には、中国製品への関税強化をめぐる懸念など、経済政策への不透明感があるとみられる。

※消費者信頼感指数=消費者の景気に対する心理的な状況を示す指数

 また、米商務省が発表した25年4月の米国小売業の総売上高は対前月比0.1%増と、3月の同1.7%増から大きく鈍化。輸入品への支出が減ったことが主因と見られ、消費者の買い控えが進行している可能性が示唆されている。原価高で価格転嫁の余地が縮小しており、小売各社は価格戦略を練り直さなければならない状況だ。

 加えて、業界関係者の間では、サプライチェーンの混乱も懸念材料となっている。中国から米国小売業者に向けて輸送されたコンテナの量は、関税強化を前にした3月の駆け込み需要で一時増加したが、4月以降は急減。4月21日の週には、米国小売業者向けの主要港における輸入量が対前年同期比48.6%減少した(図表❶)。これにより、一部店舗での欠品リスクが高まっているとの指摘もある。

図表❶中国からの米国小売業者向け輸入コンテナ量の推移(2025年)

雇用と物価が安定し、売上伸長への期待広がる

 懸念材料が積み重なる中、米市場調査会社シンフォニーAIは4月16日、6400万世帯/6億2700万件の生鮮食品購入データ(調査期間:22年1月~25年3月)をもとに分析したレポートを発表している。

 その中で同社は「関税によるインフレを見越して旅行や外食をさらに切り詰める世帯が増える一方で、家庭で食事を楽しむ人が増える」という予測のもと、「米国における生鮮食品の消費量低下への懸念は誇張されている」との見解を示した。

 米市場調査会社イーマーケターは、25年の米国小売業の売上高について、関税動向に応じた3つのシナリオをもとにシミュレーションを行った。シナリオは「最悪レベルの高関税が継続するケース」「関税率が引き下げられ、穏健な水準に落ち着くケース」「関税がより限定的で、特定の貿易相手国にのみ適用されるケース」の3通りである。

 この試算によれば、高い関税率が続く場合、売上高は同1.0%減の7兆3240億ドル(約1061兆円)にとどまるという。一方、穏健な水準に落ち着けば同1.2%増の7兆4870億ドル(約1085兆円)、関税の対象が限定されれば同2.9%増の7兆6140億ドル(約1104兆円)に拡大するとの予測が出ている。高関税が継続する場合と関税の対象が限定される場合を比べると、売上規模にして約3.9%の差が生じることとなる(図表❷)。

図表❷米国小売業売上高推移と2025年予測

 翻って、全米小売業協会(NRF)は、トランプ大統領が相互関税の方針を表明した4月2日、対象をガソリンなどを除く中核小売業に絞った集計手法を用い、より楽観的な見通しを発表した。NRFによれば、関税など、経済の不透明感が続く中でも、25年の米国小売業の総売上高は同2.7~3.7%増の5兆4200億~5兆4800億ドル(約785兆~794兆円)に拡大する見通しであるという。

 この見通しの根拠となっているのが、

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