無人店舗が性善説で成り立つ!? 中西部に見た米国小売の“別世界”

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アメリカントレンド

 今号の第2特集で取り上げているスーパーマーケット企業のハイヴィーは、アメリカの業界では知名度が高いのだが、日本での認知度は低い。アイオワ州デモインズという日本人がほとんど訪問しない地域に本拠地があるからだろう。

 アメリカの地図上でアイオワ州の場所をすぐに特定できる人はどのぐらいいるだろうか。シカゴがあるイリノイ州の左横にあり、サウスダコタやネブラスカに囲まれた地点に位置する。一般的には中西部と呼ばれるが、ハートランドという表現も使われて、アメリカ大陸の真ん中あたりにあるという意味では後者のほうが正しいだろう。

 アメリカ人は人口の65%が国境線から100マイル(約160㎞)圏内に居住しているというデータがある。地図の外輪に沿った狭い地域に人が集中しているのである。そのため大都市が外側に存在し、日本人の多くはそこをめがけて旅行することになるため、圧倒的に広い内側の地域に触れることなく、アメリカを理解した気になってしまう。

 ロサンゼルスの最富裕層と最貧困層の格差は南米のドミニカ共和国並みと言われ、ニューヨークはそれよりも激しく、アフリカ南部のエスワティニ王国並みとされている。社会を土台から支え安定化に寄与する中間所得層が少なく、政情が不安定な発展途上国と同じなのである。

 私はロサンゼルスに長年住んでいるが、ハートランドにあるデモインズを訪問すると、私でさえ本当のアメリカとはこうなんだと実感することになる。

デモインズ空港内の無人店舗
AIセルフレジが設置されたデモインズ空港内の無人店舗(筆者撮影)

性善説ありきの無人店舗

 デモインズ空港でマシュジン社が開発しているAIレジを目にした。商品をレジ台の上に載せるとカメラを使ったコンピュータービジョン技術で形状を認識し、バーコードのスキャニング不要で決済を済ませることができる優れものだ。

 空港内の小さな売店にセルフレジとして設置してあったのだが、店員がいない無人店舗なのであった。頭上にカメラがなかったのでモニターもしていない。つまり不特定多数が大量に行き交う店舗が性善説でデザインされているのである。これに私は軽い衝撃を受けた。

 ニューヨークやロサンゼルスの中心部の店舗では万引き防止でゴンドラにカギがかけられている。そういう店舗を目にしている自分にとっては、デモインズ空港の無人店舗は実に新鮮なのであった。

 万引きがそれだけ少ないのだろう。たぶん国境線から離れたアメリカの大多数を占める地域はそういう環境なのである。

 もう一つ、

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在米40年、現在はロサンゼルス在住。小売業界ジャーナリスト。年間訪問店数はのべ600店舗超、現場検証に基づいた分析をモットーとする。

著書

『ソリューションを売れ!』(ニューフォーマット研究所)
『誰も書かなかったウォルマートの流通革命』(商業界)
『アマゾンVSウォルマート ネットの巨人とリアルの王者が描く小売の未来』(ダイヤモンド社)

 

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