価格・価値の両輪で開発加速! 米国小売のPB最新事情
インフレで消費者の節約志向が強まる中、米国のプライベートブランド(PB)の売上高は過去最高を更新している。味やコンセプトに工夫を凝らした商品が増え、消費者の選択の幅を広げたことで、競争力が一層高まっている。
消費者の間では価格以外の要素を評価する動きが見られ、PBの存在が店選びにまで影響を与えているようだ。
9割超の企業が「PBへの投資を拡大」
近年、米国ではPBの市場規模が拡大している。PBの業界団体であるプライベートブランド製造業者協会(Private Label Manufacturers Association: PLMA)によると、2024年のPB売上高は対前年比3.9%増の2710億ドル(39兆2950億円)で、過去最高を更新した。市場に流通している商品のうち、PB商品が占める割合は金額ベースで20.7%、数量ベースで23.1%となっている。
カテゴリー別の売上高は「チルド食品」が577億ドル(8兆3665億円)で最も多い。売上高成長率も「チルド食品」が同7.5%増と最も高く、次いで「一般食品」(同4.3%増)、「飲料」(同4.0%増)となっている。
インフレ下で節約志向が強まる中、消費者のPBへの支持が一層高まっている。食品小売業の業界団体である食品産業協会(FMI, The Food Industry Association)の消費者調査では、「過去1年間にPB商品の購入頻度が増加した」と答えた割合が55%に達した。購入理由は「お買い得感」(72%)や「価格」(71%)が多く挙げられている。
また、「品質」(42%)、「味」(33%)を挙げる割合が増加傾向にあり、価格以外の要素を評価する動きも見られる。「PBが店舗選びに影響を与える」と答えた消費者は53%にのぼっており、PBのブランド力が店選びに影響するレベルにまで高まっていることがわかる。
こうした消費者動向を背景に、食品小売企業および食品メーカーの間ではPB戦略の重要性が再認識されている。FMIが実施した業界関係者調査によると、84%の経営幹部がPBを「極めて重要」と位置づけており、93%が「今後2年間でPBへの投資を拡大する」と回答している。
数あるPBの中で、近年とくに目立っているのが価格訴求型PBだ。22年以降、インフレの影響で価格に対する感度が一段と高まる中、大手小売企業はナショナルブランド(NB)と同等の品質を確保しつつ、低価格を実現したPB商品のラインアップを強化している。
その先陣を切ったのが、クローガー(Kroger)だ。同社は22年9月に低価格ラインの「スマートウェイ」(写真)を立ち上げ、加工食品、飲料、パン、日用品など150品目以上を展開。24年8月には99セント(143円)の缶詰や1ドル99セント(288円)の菓子など、3ドル未満の商品ラインを拡充した。非食品分野では、ターゲット(Target)が24年2月に「ディールワーシー」を開始し、日用品や美容用品、電子機器を中心とした約400品目を10ドル(1450円)以下の価格帯でラインアップしている。

オンラインチャネルでも同様の動きが加速している。アマゾン(Amazon.com)は24年9月から新PB「アマゾンセーバー」を展開。このPBで展開する商品のほとんどは5ドル(725円)未満で購入でき、有料会員制である「アマゾンプライム」に加入していればさらに10%の割引を受けられる。クラッカー、クッキー、缶詰、調味料などの日常消費財を中心に、品揃えを100品目以上に増やしていく方針だ。
オンデマンド配送サービスを手がけるゴーパフ(Gopuff)は、22年1月に同社初のPB「ベーシカリー」(写真)を立ち上げ、菓子、飲料、日用品などをお買い得感のある価格で提供する。

圧倒的な安さを強みとするダラーストア最大手のダラー・ゼネラル(Dollar General)も食品を中心としたPBの品揃えを拡充している。23年度に「フード・ファースト」と称するイニシアチブのもと、食品・飲料のPB「クローバー・バレー」(写真)の取扱品目数を600品目以上に増やし、年間売上高は23億ドル(3335億円)を超えた。25年度には、調味料、飲料、パン、アイスクリームなど、50品目以上の新商品を同ブランドで投入する計画だ。

ウォルマートの新PB「ベターグッズ」が好調
価格訴求型PBの拡充が進む一方で、消費者の多様な嗜好やニーズを踏まえ、価格以外の価値を訴求するPBを新たに立ち上げる動きも活発になっている。
ウォルマート(Walmart)が提供する食品の新PB「ベターグッズ」(写真)は同社過去20年で最大規模のPBとして24年4月に創設。以来、同PBは急速に普及しており、
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