既存店好調、EC事業はついに黒字化へ…… ウォルマートの最新戦略を解説

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10年にわたって続けてきた投資と、店舗を起点としたフルフィルメント戦略が実を結び、ウォルマート(Walmart)がついにEC事業を黒字化させた。規模こそアマゾン(Amazon.com)には遠く及ばないものの、成長率では上回り、2024年度は広大な米国EC市場で存在感を強めた一年となった。世界最大の小売企業は今後、どのようなEC戦略で成長していくのだろうか。

デジタル広告の収益2ケタ増、成長率でアマゾン上回る

 ウォルマートの24年度の連結売上高は6810億3800万ドル(対前年度比5.1%増)、連結営業利益高は293億4800万ドル(同8.6%増)、連結最終利益高は194億3600万ドル(同25.3%増)だった。

ウォルマート
24年度の連結売上高は増収増益での着地となった

 インフレ率の高騰は24年初頭に落ち着いたが、マイナスになったわけではなく、数年前から比較すると高止まりしている状態となり、賃金の上昇が追いつかず、家計を圧迫している状態が続いている。これが24年の消費を取り巻くマクロ環境だ。

 そのため買い回り品の買物を減らす、高価格帯を敬遠して低価格帯にシフトする、というような購買パターンが続いている。そういった環境下での増収増益なので、相変わらず堅調に推移したという表現が適切だろう。

 とりわけ忘れてはいけないのは、同社は18年頃から新規出店数をほぼゼロに抑え、既存店の売上高で増収を継続している点である。その既存店売上高(ガソリン売上高除く)は、米国ウォルマートは4.5%増、サムズクラブは5.9%増だった。

 既存店の成長要因は、客数と客単価増がけん引し、とくにグロサリーとヘルス&ウェルネス分野が好調だった、と決算書には記されている。またEコマースの売上増がおよそ2.6%~2.9%ほど貢献していて、そのEC売上増は主に店舗フルフィルメントによるストアピックアップと即配がけん引したとしている。つまり既存店の売上高増の半分以上をネット通販が占めているのである。

 このECの売上高は米国内事業793億ドルで、年率20~22%増で推移している。145円換算すると11兆円を超える規模だ。もちろんアマゾンの売上高には遠く及ばないものの、アマゾンの成長率は10%前後まで落ちており、業界ではこれをもってウォルマートのECはアマゾンに追いつき、追い越し始めているという論調となりつつある。

 またデジタル広告事業の売上高は44億ドルで同27%増と発表されている。日本円換算すると6000億円を超えていることになる。同事業について、ウォルマート幹部が「そろそろ収益に影響を及ぼす規模になりつつある」と発言しており、事業として独り立ちし始めている。これもまたアマゾンの10分の1以下の規模なのだが、成長率がアマゾンの18%を上回っていることと、市場が大きいので、今後の期待が大きな分野である。

配達エリア最適化で配達対象1200万人増へ

 25年4月に開催された投資家向けカンファレンスでCFOがこんな発言をしている。

 「ECは25年度中に通年で黒字化する見込みで、第1四半期はすでに黒字化している。これは画期的な瞬間であり、今後数年間にわたって利益率の向上が見込まれる」

 これは私にとっても画期的な発言で、とうとう来たのかと感慨深い。私の知る限りECで黒字化という言葉が出たのはこれが初めてである。

 ダグ・マクミロンがCEOになったのは14年で、直後の投資家向けスピーチで「社員への投資を増やすから営業利益が減る」と発言し株価が落ちている。その後はデジタルやECへの投資とそれに伴うサプライチェーンを含むインフラ投資など、設備投資を増やし続けて、営業利益率は2~3ポイント程度低いまま推移している。

 この10年にわたる長期的なコミットメントが実を結び始めたということになる。そしてこのEC好調をけん引しているのが、

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記事執筆者

在米40年、現在はロサンゼルス在住。小売業界ジャーナリスト。年間訪問店数はのべ600店舗超、現場検証に基づいた分析をモットーとする。

著書

『ソリューションを売れ!』(ニューフォーマット研究所)
『誰も書かなかったウォルマートの流通革命』(商業界)
『アマゾンVSウォルマート ネットの巨人とリアルの王者が描く小売の未来』(ダイヤモンド社)

 

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