時価総額は8500億円に迫る!アシックス強さの秘密とアキレス腱とは
企業の出自に着目すべき理由
さて、読者の皆さんは、店を持っていてファブレス(工場を所有しないこと)で商社に生産委託すればすべてSPA(製造小売)だというおおいなる勘違いをされている人もいるようだが、会社というのは、その「出自」が大事だ。
例えば、オンワード樫山などは本社職と売場職で別々に入社をしている。だがこんなことは、リテール出自のSPA企業である、ユナイテッドアローズやユニクロなどは絶対にやらない。すべての人員を売場に立たせ、「お客さまに販売する」ことを徹底して体に染みこませ、そこから本部のMDや事業部長へとあがっていく。従業員の多くは売場が自分の職場だと信じている人が多く、本社などには戻りたくないというマインドを持っている人も多い。
このように、会社の出自を分析するのはとても大事なのである。まず、メーカー型企業は、「良いものをつくれば、必ず誰かが買ってくれる」と「だれか」という曖昧なペルソナをおいて仕事をするが、リテール出自の人は、実際に自分が経験し、接客した人を思いながらものづくりを行ってゆく。売場の人間と生産の人間を同じフロアになどしなくとも、ユニクロのように全員が「売場命」というマインドをもっているのが、リテーラー出自のSPAである。
時として、メーカー出自のアパレルはどうでも良いようなところにこだわり、これが自分たちの差別化要因だというのだが、リテール出自のアパレルは、そもそも商品に差別性などない、客が欲しいときに欲しいものが店頭にあるかないか、それが勝敗を決するという考え方になり、両社の溝は決して埋まらない。どちらが良い悪いという話ではないのだが、ここはよく覚えておきたい。
欧州、北米での堅固な売上基盤と急速な伸び
アシックスは他の競技用スポーツメーカーと同様、スポーツ大会に協賛したり、100mの世界陸上金メダリストであるフレッド・カーリー氏とアドバイザリースタッフ契約を結ぶなど、トップアスリートとパートナーシップを結び、ブランドポジションの向上を図っている。
デジタルを含めた顧客の囲い込みという点では、OneASICSという会員制度、ASICS Runkeeperというランニングアプリ、そして欧州や日本でレース登録プラットフォームの買収を通じて、ランナーの囲い込みを行っている。アシックスは22年8月、日本最大級のランナーポータルサイト「RUNNET」を運営するアールビーズ(雑誌ランナーズの版元でもある)を日本テレビホールディングスとともに子会社化、同年11月には欧州最大級のレース登録プラットフォームを提供するnjuko SASを買収し、「ランニングでNo1」戦略を進めている。
OneASICS会員数とEC売上をみても、日本よりも北米、欧州での規模、成長が著しいことがわかる。とくにEC売上高は日本ではわずか16億円にすぎず、北米の1/5未満、中華圏とくらべても約1/3しかない。
では次に気になるエリア別ポートフォリオをみてみよう。
最初に図表内の略称について説明しておく。
- P.RUN:パフォーマンスランニングの略、ランニングシューズビジネスのこと
- CPS:コアパフォーマンススポーツの略、ランニング以外の競技用スポーツシューズ
- SPS:スポーツスタイルの略、ファンラン向けスニーカーやカジュアルスニーカー
- APEQ:アパレル・エクイップメントの略、競技用ウェアやファッションアパレル事業のこと
- OT:オニツカタイガーの略、いわずとしたプレミアムブランド
地域別売上をみると、ナイキ、アディダスなど競合がひしめく欧州での売上が最も大きい。対してアシックスジャパンはその約半分程度の規模。これからの成長を見込む東南・南アジアは、欧州の1/6~1/7の規模しかない。ただし、伸張率は現地通貨ベースで75.4%増と驚異的な伸びだ。ただ売上トップの欧州の売上成長率は32.1%増とこちらも急激な伸びだ。ここからも、同社は欧州にもっとも力をいれていると思うべきだろう。
各地域で、売上構成比トップのカテゴリーが、ランニングシューズであるP.RUNで、北米や欧州では6~7割強を占める一方で、日本だけがCPSがトップシェアとなっている。これは前述のとおりいわゆる部活などで使われる競技用スポーツシューズのことで、こちらが日本市場では依然大きな売上を占めていることになる。
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