ABCマート、一人勝ちの秘密 勝ち組小売業に共通する3つの真理とは何か

河合 拓 (株式会社FRI & Company ltd..代表)
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シューズビジネスの鬼門、在庫をチェックする

 最後に、在庫をチェックしたい。なぜならアパレル企業は、PL(損益計算書)だけをみて利益が出ていたとしても額面通りに受け取ることはできないからだ。つまり、もはや売れない不良在庫(つまり時代遅れで換金できない)をBS(貸借対照表)に隠すケースが非常に多いということである。

 ABCマートの場合はどうだろうか。一般的に、ケミカルシューズのような雑貨の場合、衣料品と異なりライトオフ(損失処理をする)までの期間は長い。物理的にケミカル素材が黄ばんだりひび割れするまでの期間は35年なので、それまでは新品として店頭を飾ることができるのだが、保存状態が良ければさらに持つ。したがって、多少の在庫が残っても翌年、そして、翌々年と売り切ってゆけば良いわけで、それほどファッション性がないベーシックなものであればサイズの多さは実はそれほど不利にならない。それでは、同社の在庫の売比を見てみよう。

ABCマートの在庫の売上対比
ABCマート販管費の内訳(出所:同社22年2月期決算短信より)

  というわけで、こちらも212月期のやや過少在庫(コロナのためと思われる)を除けば、単体の在庫は計算し尽くしたかのように正確に1/4にコントロールされている。衣料品アパレルをみれば、例外なく、この流動在庫の売比が年々増えて行き、この在庫(たまった流動資産)を換金しなければ破綻するというアパレル企業が山のようにあるが、ABCマートは毎年出店をしながら売上を伸ばすクラシカルな手法で、針の穴を通すような精度で売上の1/4の在庫をキープしている。

  ここまでスキがないと、私もコンサルの意地のようなものがでてきて別の角度からの分析も試みた。在庫回転率、つまり、ライトオフの期間を長くして損金処理とあわせて調整しているのではないかという仮説を考えた。しかし、事実は下のようになっていた。

ABCマートの在庫回転日数と売上債権回転日数
ABCマートの在庫回転日数と売上債権回転日数

 まず在庫回転日数は、平均して100日、つまり一年を365とすれば3回転程度。これは、多岐にわたるサイズバリエーションを考えれば奇跡に近い良好な数字だ。232月期が130日近くなっているが、それでも在庫回転率は2.8と、アパレルの一般的な在庫回転率である2.5を超えている。また、お金の回収はすべからく20日以内だが、リテールビジネスをやっていれば、それほど不思議ではないし、貿易業務も全体から見ればさしたる影響はないと思われる。

ABCマートにみる、勝ち組小売3つの真理

 ABCマートを初期的分析で粗探しをしてみたが、粗らしい粗はでてこなかった。それより、同社の凄まじいまでの強さの秘密が数字からもよくわかった。地方のショッピングモールに、ユニクロとABCマートがセットで必ず入っている理由もよくわかる。おそらく、相当有利な家賃でモールから誘致されているのだろう。

 以下、ABCマートの分析を通して私が感じた3つの知見を共有したい。

①所詮数字は結果指標

 数字というのは、医者で言えば問診のようなもので、数字を見ていればどこが悪いのか、よくわかる。当然、健康体であれば、私のような半死状態のリテールばかりみてきた人間からすれば奇異に見えるが、これがあるべき姿といえばそうなのかもしれな

②売れる業態づくりが先、小手先のテクニックは後

 今回、あらためて感じたのは、何にもまして「売れて、儲かる業態開発が先」であるということだ。何にもまして、売れる業態であれば在庫もはけるし出店しても貢献利益で出店費用はカバーできる。しかし、私たちは売れない業態を見ると、すぐに些末な小手先のテクニックに入り、極めて小さな改善を繰り返す。その改善には、とても離れた顧客を呼び寄せるほどのパワーは無い。やはり、本質論で言えば、「売れる業態」をつくってなんぼ、ということになるのだろう。

③売れている理由は数字には表れない

ここは、今回もっとも強調したいところである。例えば、ABCマートで売っているスニーカーは、一般に売られているものと比較して安価なものが多い。だからといって、「安いから売れているんだ」と早合点する、あるいは、なんの根拠もなく「SPAだから売れるんだ」と、因果関係が全く無い理屈をこねる人が多い。だが、本当の正解は、消費者の声に丹念に耳を傾け、「なぜ、ABCマートで靴を買うのですか?」と相手が根を上げるまで、「なぜ」を繰り返し、「安いからです」の先にある本当の秘密にたどり着くしかない。そこにはきっと、数字では表せない何かがある。繰り返しになるが、数字は所詮は結果指標なのである。

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プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。2020年に独立。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/index.html

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記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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