今なお世界有数の技術を持つ日本 それを破壊する小売業の構造問題とは
メーカーの技術を応用して
差別化を実現するのが小売業の役目
次に言いたいことは、私が実務をやっていた20年前と全く変わらぬことが今でも繰り返されているという驚くべき実態だ。それが展示会のやりとりである。
メーカーが展示会を開催し、アパレル、リテーラーが訪問する。そこで、メーカー側が一通り説明すると、それを受けてアパレル、リテーラーが「このボタンを押すとどうなるのですか?」(あえて、分かりやすく単純化したことをお許し頂きたい)と尋ね、それだけで「使える」「使えない」をリテーラー側は判断している。
よく考えてもらいたい。メーカーは「ものづくりのプロ」だ。そこにあるのは、その企業しか持ち得ない中核技術であり基礎技術である。モノが売れて仕方なかったバブル前の時代ならいざ知らず、モノが売れず、マーケットが細分化された今、顧客と最も接点を持ち顧客の動きや変化を最も知っているのは小売業ではないか?
ならば、正しい対話とは、メーカーが基礎技術と単純化された構造を開示し、例えばこういうことができるということを説明する。それを見て、アパレル・リテーラーが「その技術であれば、こうした応用が可能なのではないか」と問いかけることだろう。
しかし、20年以上経った今でも、手法は何も変わっていない。小売業は展示会巡りをしながら、「使える」「使えない」を繰り返している。本来、「応用技術」で差別化するためのプロセスとは、アパレル・リテーラー側が、顧客動向を見て発想を展開させ、メーカー側が収束させる共同作業で行われるべきだ。
私は、20年以上前にイタリアの工場である光景を目にした。工場内に独自のlabo(研究所)を持ち、製造業とは最も遠いところにいる「デザイナー」と試紡機(テストで小ロットのサンプルをつくる機械)を使って、ああだ、こうだと、スワッチ(編み地)を見ながらやりとりを繰り広げていたのである。
しかし、日本のアパレル・リテーラーは、こうした発想さえもたず、展示会からの岐路で、「あれじゃ、使えないな」など、ひそひそ話で会話をする。基礎技術から差別化の応用技術へと昇華させる「夢と希望でワクワクするような」リテーラーにはなかなかお目にかかれない。
発想豊かな世界のトップメゾンは、応用力の塊だ。日本人が気づかない活用法やブランディングを構想し、ブランドを創り自社の差別化を考える。競争相手と同じことをすることは死を意味すると彼らはよくわかっているからだ。日本の小売業の方達よ、もっと技術の本質的なところに目を配り、顧客と市場から応用力を考えて頂きたい。それこそ、あなたたちの仕事である。
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プロフィール
河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)
ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)
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