「大きなD2C」へ向かう未来のデジタル・アパレルの姿とは

河合 拓 (株式会社FRI & Company ltd..代表)
Pocket

 

サプライチェーンという概念が消える

Teka77/istock
Teka77/istock

今、ZARAを見ても、Sheinを見ても、世界の物流の主流は「クーリエ」だ。クーリエとは、ドア・トゥ・ドアサービスのことで、物流業者に渡せば世界の裏側まで48時間以内に運んでくれる。Sheinは、クーリエをつかって、中国広州から「個配」(個別配送)で、個人宅まで運ぶ。その結果、輸入関税が無税になることはすでに84日の論考で説明したとおりだ。

私は、15年前に全日空のシステム導入の仕事をした経験がある。当時、航空機業界はSPEC2000という、業界全体の業務標準プロトコルを世界規模で細かく規定しており、航空機産業へのシステム導入は、このSPEC2000に準拠していることが前提だった。私が、経産省にグローバルサプライチェーンを閉じた日本国だけで行うのでなく、世界規模の広がりを持ち、かつ、日本主導で構築するなら、このSPEC2000のような国際ビジネスプロトコル(コード、業務フローの標準形)を作るべし、という政策提言をしたのはこうした経験からだ。飛行機のメンテナンスには恐ろしい数の部品が必要で、この部品の収集にクーリエが使われていた。当時のFedEx(フェデラルエクスプレスの略)の貨物のトラッキングは神に近く、世界中のどこにあるか「30秒以内」に追跡が可能だった。繰り返すが、今から15年も前のことだ。

 私は、米国に調査に行き、まずオフィスに国内部と海外部がわかれていないことに驚いた。当時、(そして今でも)多くの日本企業が物流は国内部と海外貿易部をわけていた。私は、米国担当者に、「なぜ、貿易部と国内部をわけていないのか」と聞いたところ返事は極めてシンプルなもので、「FedEx to NYと書けば、NYに運んでくれるし、to Japanと書けば、日本に持って行ってくれる。なぜ、わける必要があるのか」というものだった。これが、15年前の世界の常識だ。

 翻って、日本のアパレルはどうだ。ようやく、商社外しが進み、ドロップシップ(日本で仕入を行うのでなく、海外で仕入れを行うことをいう)といって海外で貨物の仕入を行いだした。聞けば、その後、世界に輸出する拠点政策かと思いきや、「商社の連中に日本まで運ばせると、いくら抜かれるか分からないから海外で仕入れをする」というレベルである。

まだ、駆け出しのコンサルだったころ、アパレル以外のいろいろな産業改革の経験をした私は、その圧倒的な時間軸の差に驚きを禁じ得なかった。すくなくとも、この航空機の部品産業においては、サプライチェーンマネジメントという概念はない。FedExDHLなど世界規模で国際物流を展開するクーリエ企業と、どれだけ有利な契約を結ぶかで一点単価あたりの物流費が決まるわけだ。

1 2 3 4 5

記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

筆者へのコンタクト

関連記事ランキング

関連キーワードの記事を探す

© 2024 by Diamond Retail Media

興味のあるジャンルや業態を選択いただければ
DCSオンライントップページにおすすめの記事が表示されます。

ジャンル
業態