新連載・リンジのアドバイス2.0 ~ 時代変化を乗り越えるためのSDGsとDX ~

2021/08/10 05:58
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metamorworks/istock
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「ダイヤモンド・チェーンストア」誌の人気連載、「渡辺林治のリンジのアドバイス」がダイヤモンド・チェーンストア・オンラインに移籍リニューアルする。投資顧問会社リンジーアドバイス代表で企業経営コンサルタントを務める傍ら、東京大学医学部附属病院・医学系研究科特任講師として健康と食事のオープンイノベーションに取り組み活躍中の渡辺氏。
本連載では、小売業経営におけるSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)、SDGsを実践するためのDX(デジタル・トランスフォーメーション)の取り組み方を同氏が解説する。

 セブン&アイ・ホールディングス(東京都)は2021年6月、米国でコンビニエンスストア事業の株式取得が連邦取引委員会から承認された。国内では同じく6月に、経済産業省と東京証券取引所が共同で実施する「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)2021」にも選定された。総合流通グループとしては初の選定だ。

 これらのニュースに共通するのは、時代の変化を乗り越えようと挑戦している点だ。

 小売業界は今、時代の変化に直面し、苦戦している。前期20年度の決算は、主力36社合計で、3年連続の営業減益だった。生活必需品を扱う食品スーパーなどを除き、百貨店、アパレル、外食セクターは赤字に陥った。厳しい業績はコロナ禍だけが原因なのだろうか。そうではない。

 それは時代変化に小売が対応できなくなっているからだ。したがって、短期的な収益回復に加え、長期あるいは超長期の視点で、時代を乗り越える挑戦が求められる。

 では、時代の変化とは何だろうか。最も大きな変化は、世界全体で加速している「企業の社会性」を重視するうねりだ。

 慶應義塾大学商学部長の岡本大輔教授によれば、企業の社会性とは「ステークホルダーに対する成長性・収益性といった業績以外のコミットメント」を意味する。これには、従業員の働きやすさと生活向上の実現、適切に機能するコーポレート・ガバナンスの確保、高い企業倫理性、消費者・地域社会からの強い支持、地球環境の保護など、幅広い領域が含まれる。企業の目的である、長期・超長期の維持発展を実現するためには、ステークホルダーとの幅広いかかわりをマネージする必要があるのだ。

 こうした社会性のうねりが高まるきっかけとなっているのが、国連が2015年に採択したSDGsである。長期・超長期的に社会、環境が維持され、人々の健康や働き甲斐も大切にしようとする動きで、17の目標が掲げられている。

 日本でも「企業の社会性」のうねりが強まっている。学校ではSDGs教育が普及し、家庭での話題を通じ常識になりつつある。SDGs教育を受けた世代が10年後には20~30歳代になり、社会性に意識の高い消費者に育っていこう。

 上場企業に対する政府の働きかけも積極的だ。金融庁は投資家と企業の対話ガイドラインを、東京証券取引所もコーポレートガバナンス・コードを、それぞれ6月に改定した。上場企業は社会性への取組み強化が求められた。社会性への取組みは待ったなしだ。

 SDGsの視点を含む「企業の社会性」への対応に遅れた企業は、時代においていかれよう。しかし、SDGsとは何か、一時的なブームなのか、何をしたらよいのか、動きが急すぎて当惑している読者も多いと伺っている。

そこで本連載は、これからの小売業を創造していく若者世代、上司からSDGsと言われて困っている店舗と商品部、サステナビリティ担当部門を読者と想定し、理解と実践に役立つ説明と提案をめざしたい。

内容は以下の5点を考えている。
① SDGs、企業の社会性とは何か
② SDGsは小売の経営とどう関係しているか
③ 商品や店舗にSDGsはどう具体化できるか
④ SDGsへの取り組みで業績は良くなるのか
⑤ 情報開示はどうしたらよいのか

 具体的に役立つように、本連載の実施にあたり先進的なスーパー各社の経営トップから店長まで、幅広くインタビューも実施している。デジタル時代に対応するべく、全国スーパーマーケット協会を含め、多くの企業からビッグデータの提供を受け、統計学的分析も進めている。より長期的な視点から掘り下げるため、小売の歴史400年を振り返り、創業100年以上を誇る長寿企業の成功の秘訣と戦略も取り上げる。

 本連載では、読者の皆さんからのリクエストにもお応えし、小売業のSDGs経営の在り方を一緒に探っていきたい。編集部にお気軽にお声掛けください。


注:本連載は、立命館アジア太平洋大学篠原欣貴准教授、慶應義塾大学大学院薩佐恭平氏、そしてアドバイザーの慶應義塾大学商学部佐藤和教授との共同研究がベースになっているが、誤りなどの責任は筆者にあります。

 

渡辺林治氏

渡辺林治

東京大学医学部附属病院・医学系研究科特任講師、慶應義塾大学博士(商学)企業評価グループ主任研究員、一般社団法人日本商工倶楽部・財務委員会委員、投資顧問リンジーアドバイス株式会社代表を務めている。慶應義塾大学経済学部卒、UCLA アンダーソン経営大学院修了、野村総合研究所、シュローダー投信投資顧問を経て創業。外務省、経済同友会、日本小売業協会などで講演。

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