アパレル産業のSDGsをDXで解決する方法とは 余剰在庫問題は課題設定を間違えている

河合 拓 (株式会社FRI & Company ltd..代表)
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余剰在庫削減4つの方法

河合 SHEINという企業はよく知りませんが、売上が1.1兆円もあるなら、世界ランキングに出てきても良いのではないかと思いますが、ZARAと似たMDシステムが裏で動いている可能性が高いですね。

 我々は、念仏のようにベーシックはアイテム数が少なく、ライトオフまでの期間は長い、ファッション商品にはあてはまらないなど繰り返していますが、例えば、ハニーズなどは地方で、仕入れたら売り切るまで何度もファッション商品を定価販売し続けています。だから、ファッション商品にあてはまらないという意見は、「本当か?」といつも疑っています。

 ワークマンもライトオフまでの期間は10年です。おそらく、バブル時代にライトオフはワンシーズンという「常識」ができ、また、1990年後半にQR(クイック・レスポンス)が日本に上陸し、誰もが「作り増し」をした。当時の状況を私はハッキリと覚えていますが、誰も消費者の購買特性や満足度というものからものごとを考えていませんでした。

 むしろ、米国のリテールとテックを「先生」と見立て、それを、いわば消費者無視で導入してきたわけです。今、QRは、よほど強いブランドがなければ消化率を悪化させ、余剰在庫を積み上げることは、前著「生き残るアパレル死ぬアパレル」で書きました。

 生産ラインと素材を確保し、デザインを「X」として、そのときの流行で味付けする。それらは、売り切る力の8割程度で欠品させるということだと思います。言うは易く行うは難しですね。サプライチェーン全体が同期化しなければ、こうしたことは不可能で、工程の中の一社だけがZARAMDを組んでも機能しないでしょう。

 本来、こうした戦略的取り組みはトップの仕事ですし、99%が中小企業である日本という国で事業をしている以上、そのまとめ役は商社であるべきです。

 余剰在庫の論点は、反語的ですが、余剰在庫にあらず、です。

 まとめます。
 繰り返しになりますが、余剰在庫の問題については、我々は課題論点を見誤っている気がしています。資本主義が正しく機能していれば、経営失策により余剰在庫を抱えた企業は潰れます。ただし、新型コロナウイルスのようなパンデミックについては、国が産業を守るべきで、このメリハリがなされておらず、悪平等から市場退出すべき企業を放置していることが余剰在庫問題の本質のように見えます。

 ある企業のプレデューデリジェンスをしたところ、100億円事業のバランスシートに10年もののビンテージ在庫が山のように残っていました。こんなものは、コロナとは関係ありません。結局、この企業は破綻しました。

 また、「大量生産が悪い」というのは、言葉の使い方を間違っています。正しい言い方は、消費者が必要としている以上の過剰生産が悪いのであって、大量生産は産業効率をあげ消費者に高いコスパを提供する手法です。反意語を分割生産とするなら、そんなことをしたら、競争力が阻害されるだけです。

 最後に、余剰在庫を残そうと思って残しているアパレルなど存在しません。すべて売り切ろうと思っているのですが、結果的に売れないわけです。私は、

  • ZARAMD
  • 受注生産
  • 余剰在庫の適切な換金
  • ブランド買取による二次流通市場

によって余剰在庫は相当削減が可能だと提言を繰り返しています。

 ZARA MDAIを、受注生産はIOTとクラウド、余剰在庫の換金は、FULL KAITENというスタートアップのソリューションが有効です。ブランド買取はEマーケットプレイスなど、すべて、テクノロジーが裏で動いています。特に、二次流通市場については、先日出演したテレビ番組でゆろゆきさんと討論をした時、彼は、フランスでは服を捨てることは法律で禁止されており、また、シャネルのビンテージ物などを補修し10万円程度で販売されている、と、私の二次流通市場論に賛同してくれました。実際、ZOZOTOWNはすでに買取をやっていますし、メルカリは上場しました。素材をリサイクルにすることを悪いことだとは言いませんが、それ以上に、新品の服を供給するスタイルを根本から見直してはどうかと私は思うのです。

  加えていうなら、国の企業支援についても、その是非をしっかり考え、ばらまきはやめ、産業の新陳代謝を進めてゆくということでしょう。これが、私の考えるDXSDGsとなります。

 入来さん、今日はありがとうございました。

 

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プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)

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記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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