アパレル産業のSDGsをDXで解決する方法とは 余剰在庫問題は課題設定を間違えている

河合 拓
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金融市場を正しく機能させよ

 入来 アパレル業界のSDGsに対する問題認識はある程度はっきりしています。具体例でいうと、生産工程および完成品の余剰在庫焼却で排出されるCO2の問題、染料による水環境の破壊、調達・生産工程における途上国および特定地域の人権問題。多くの人はこのように答えると思います。また、これらの問題のうち多くが、過剰生産の波及効果であることも、この連載を読んでおられる方は理解されているでしょう。

一方で、河合さんも日ごろおっしゃっていますが、過剰生産の問題があるにせよ、その対策が経済合理性とかけ離れたものであってはいけません。したがって、消費者が求めるものを提供することと、より効率的に生産することを両立するために何をしなければならないかという観点で議論をしたいと思っています。

 河合 全くその通りです。私は、ある研究会の会合に、私がものづくり有識者として呼ばれ、4つの提言、そして、トヨタJITによる生産方式の紹介をしました。

 カットソーはプリント技術、ニットはホールガーメント、布帛はIotを組み合わせれば、ほぼフルラインで受注生産が可能な時代になっています。私はこれらの工場を全て訪問しその技術に実際に触れました。しかし、こうした討議に参加されている学者さんや業界の重鎮のような人たちは勉強不足がはっきりと露呈している

 例えば、「総投入量の50%が売れ残っている」と発言している。それが事実なら、翌年は20億点がキャリー(持ち越し)され、さらに40億が投入されれば合計60億点となる。また翌年に20億点がキャリーされれば80億点になり、100億、120億点となるわけですね。

 そんなバカな話があるはずはないので、よくよく聞いていると、“プロパー消化率が50%であることと最終消化率を混同している”ようなのですね。つまりプロパー消化率50%=半分が売れ残っている、と理解しているわけです。

 現実には、残品率というのですが、正規価格で売れない商品は売価変更を行って換金率を上げ、それでも動かない商品が残品率です。悪い企業で30%、良い企業だと5%程度です。半分が売れ残るなんてことはあり得ないですね。

 話をSDGsにもどすと、こ地球の気候変動やその他環境破壊はすでに取り返しのつかないところまできており、「皆で努力して解決しよう」と掛け声をかけてはいますが、実は、もう時すでに遅し、環境が完全破壊される時間伸ばしをしているだけ、という話もあります。

 例えば、私は余剰在庫の問題は、資本主義を正しく機能させていない政府の問題もあるのではと考えています。資本主義下では、経営に失敗した企業は倒産し、新しい産業がそれに変わる。こうして産業の新陳代謝が起きるのです。実際、米国ではバッタバッタとアパレルが潰れていますね。ところが日本では目立ったところではレナウン一件だけで、親会社は中国資本です。

 さきほど述べた金融ローンなどは、パンデミック下にある企業には使うべきでしょう。国も企業を守るべきです。しかし、経営の失策で余剰在庫を残したのであれば、その損金処理は正しく企業が責任を負うべきです。そこの棲み分けができていない。理由は、金融機関が事業評価を正しくできないからです。つまり、マクロの観点からいえば、誤った金融政策の結果、市場から退出すべき企業が生き残り売れない在庫をこれでもかと量産しているわけです。そうした企業が生み出す余剰在庫をどうすればよいか、という課題定義そのものが間違っていると私は思います。

三菱商事ファッションのthe me
三菱商事ファッションのthe me

入來 それは、面白い視点ですね。実際、この問題はマクロとミクロにわけて考える必要があるでしょう。

 例えば、個別企業で言えば余剰在庫の問題はやはり深刻です。最近、流行になってきた受注生産でいえば、三菱商事の子会社・三菱商事ファッション(MCF)が展開している新ブランド「THE ME」は、商社のものづくり機能を生かしカラダの自動計測器を活用したパーソナルオーダーの新業態なのですが、昨年の秋冬シーズン、私も実際に数着購入しました。試着にフォーカスした店舗体験や、体に最適化された服の着用体験は素晴らしい一方で、今春夏シーズンは購入しておりません。アイテムがベーシックすぎるのと、品番数が少なすぎて、私個人の好みのものがなかったからです。

 さて、いろいろな企業が完全受注生産をしていますが、その際、半製品在庫を持つ場合が多いです。ここで矛盾が生じる。ベーシック衣料と異なり、ファッション商品主体による多様な品番は、ベーシック衣料と比較して多くの半製品在庫を持つことになると恐れるアパレルが多いのです。

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