売らずにコト消費の場づくりへシフトするマルイの戦略とは フィンテックが収益の柱へ

油浅 健一
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「共創」で得る最大の果実とは

 「共創」という側面では、同社にとって賃料収入があるものの、その最大の狙いはフィンテック事業への波及効果だ。

 かつては人気アパレルブランドを好立地で販売し、収入が潤沢でない若者にクレジットカードをその場で発行する戦略で一時代を築いた同社。時代は大きく変わり、いまやそもそも若者の来店率自体が低下している。この2年はコロナによる営業自粛もダメージとなった。

 オンライン消費の浸透で購買スタイルも変化し、同社にとってオフラインでのカード加入が喫緊の課題となる中、「イベント集客」は強力なフックにもなる。同社のエポスカードは、エヴァンゲリオン、ゴジラなどキャラクターを活用したものが数種用意され、一般カードの3~15倍もの利用額を誇る。

 イベントの開催は、そうしたカード会員を来店させる動機付けにもなる。

 これら施策により、新規カード会員の増加を推進する一方で、今年4月、カード自体も非接触型決済に対応させるなど機能を向上。5年後に取扱高ベースで2倍以上をめざす体制を着々と整備している。

図表1 エポスカード取扱高の見通し
図表1 エポスカード取扱高の見通し

百貨店の異端児が突き進む先にあるもの

 フィンテック事業が同社の収益の軸として強固になる中、同社の実態にフォーカスすれば、もはや「百貨店」の面影はほとんどないといえる。実質は、好立地の箱を提供する集客力のある空間をキラーコンテンツとするマーケティング支援型のフィンテック企業といってもいいのかもしれない。

 百貨店にとって、好立地の立派な店舗は強力な資産に違いない。だが、購買スタイルの変化や買い物に対する意識変化が進む中にあっては、立地の良さを小売のためと考えることが必ずしも最適解とはいえない。

 人が集まりやすい場所に「空間」を所有していることにフォーカスし、その利用価値を最大化する。フィンテック事業をその横串とし、多様な企業と共創しながら、新しい価値を生み出していく――。同社が突き進むその先にある姿は、百貨店が生き残るためのひとつの解といえそうだが、参考にするならその前に業界の常識を一度リセットする必要がありそうだ。

 

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