アパレルは「丸ごと消滅する」産業か? 世界のDX化に乗り切れないリアルな理由と本質的解決策
最終的には業界のため・地域のため・地球のためという発想 オープン思考であること
西田 これは河合さんがよく言っていることですが、アパレル業界は本当にクローズですね。自動車産業などはすでに技術シェアが始まっているのに、アパレル業界は同じ会社の中で隠し合いが横行しています。今は業界が丸ごとなくなってしまうリスクが存在する時代なのです。
河合 それは私も感じます。あるプロジェクトで、同じチームだということでオープンネットワーク化構想を立ち上げ個別企業の技術調査を行いこれらの企業はこうした違い、差別化要因があり云々とPowerPointで説明した瞬間、慌てて「隠してくれ」と言われた経験があります。
そんなことを言っている場合ではないのに、彼らはあまりに世界を知らないのです。私が「世界」というと大きすぎると批判するのですが、ならば消費者に聞いて見ろと言っています。
実際、マーケットで競争しているのは、ZARAでありH&Mでありユニクロ・g.uなのですよ。消費者がそういう企業と比較購買しているのに、「大きすぎる」から我々には関係ないという時代錯誤感覚が負け戦を繰り返している原因なのです。私は自分の品格を下げても新著「生き残るアパレル死ぬアパレル」にあえて、「ユニクロに勝てなければ生き残れない」と書きました。大好きな企業を仮想敵国にすることはとても苦しみましたが、何社の企業がこのメッセージを理解しているのかということです。
西田 本当にどれだけの企業がこのことに気付いているのかと思います。果たして百貨店は“今のままで”残り続けることができるのでしょうか、私個人としての答えは「おそらくNO」です。顧客理解、商品編成という百貨店の強みを使い新しい時代を切り開ける可能性はまだまだあると思いますが、群雄割拠のリテール業界において、百貨店産業丸ごとなくなってしまう可能性は残り続けるのではないかと思います。
正直、百貨店に限らずアパレル業界も同様です。消化率が50%を切るほど膨大な商品を作り続け廃棄しています。消費者の期待に沿った買い物空間の提供と自社論理の衝突(ECと店舗のカニバリズムの放置などがその代表的な事象)もあります。現場スタッフへの包摂(インクルージョン)の欠如も重大な問題ですね。
今後変革に着手し、一定の成功を手にすればそれを業界で共有し、ナレッジとして共有し、他の企業の経験を加えさら強靭なWisdom(知恵)に昇華させる。それを共同で行い消費者に貢献するオープン思考が必要なのではないでしょうか。SDGsに対応し環境汚染を最小化して潤沢な脱成長をかかげ、今こそ業界をあげて生活者へ貢献するという発想を持つべきだと思います。
河合 私はSDGsの問題はもはやデジタルの力を借りずして解決しないと思います。先日もある会議に参加し、私なりにアパレルビジネスの業務実態を踏まえたSDGsへの現実解を提示しましたが、「手短かにお願いします」などと言われました。私はこの人達は本気で聞くつもりがあるのだろうかと一瞬耳を疑いました。“消化会議”など何度やっても無意味です。
結局過激派に見られたのか、来週は某TVの報道番組から出演依頼がきました。やはり過激な発言に期待をしているのでしょうか。講演の感想を聞くとやはりそういう期待が大きい。
言いたいことは、私は過激派でも穏健派でもなく、心底、心の底からアパレル産業界を愛し、そして再建を手がけ成功してきた自負のようなものがあり、聞く耳を持たないのなら私は私が考える正しいと思うやり方で産業界に貢献することを続けるということです。幸運にも私には「言葉」という武器があり、こうして書くことも私の大事な仕事だと思っています。
今日は難解なデジタル用語を使わず、DXの最前線でご活躍されている西田さんと討議ができて本当によかったと思います。DXについて広範囲な議論ができたと思います。ありがとうございました。
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プロフィール
河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)
ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)
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