アパレルは「丸ごと消滅する」産業か? 世界のDX化に乗り切れないリアルな理由と本質的解決策
データをもとに分析とアクションのシナリオを決め、徹底的に運用する
西田 私どもが企業変革をお手伝いする中で目の当たりにした実態は、ほとんどの企業が本来活用すべきデータを使っていないということです。
例えば、店頭・ECの商品販売データからマーチャンダイジング(以下MD、商品政策のこと)を組み立てますよね。その際、MDに対するデジタル支援機能も、本来ビッグデータ活用のシナリオが組み込まれ、アップデートされるべきです。ビッグデータには顧客の動きが入っており、最新の技術を使えばそれらがしっかり理解できるからです。
ところが実態は、昔ながらの単なる商品動向からの予測であったり、例えばビッグデータを使っていても、仮説(計画)検証(実績)が場当たり的に行われるなど、「意思決定とアクションの因果関係」の説明ができない企業がとても多いのです。
結果的にデータベースが社内組織のステークホルダーの意思決定の正当性主張の道具となってしまい、都合のいいデータ集計と解釈に利用されているケースが多いようにも見えます。
河合 全く同感です。私も、MD業務というのは個別企業、個別事業の差別化要因の根幹であり、また、それゆえビッグデータと連係して調達も行うべきという立場です。私はDigital MDと呼んでいます。ところが実際は、まずは顧客不在の商品動向で、商品をセンターにぶち込んで、そこから販売になってはじめてビッグデータがでてくる。
私は、極論をいえば、もはや工場とか店頭とかいうバリューチェーンの括りさえデジタルによって消滅するし、そのように考えなければスマートファクトリーもできないという立場です。例えば、店頭で『なんでも10日以内に受注生産で供給可能ですよ』と何も考えずに売りまくれば、当然、工場のキャパシティをオーバーした場合、その約束は果たされない。私はアパレルが半製品在庫リスクを持って、工場のユーティライゼーション(稼働率)を見ながら、店頭で接客とデジタル連動させるというイメージを持っています。実際、オンワード樫山の「ザ・スマートテイラー」はそのように自社の販売と工場のシームレスな連携で、信じられないほどの短納期でパーソナルオーダーができている。これはいわゆる製販分離型のバリューチェーンではなし得ない技ですね。
また、不完全なデータを使った分析が結果的にステークホルダーの都合の良い解釈になっているというのは、初めて聞きましたが、ありそうなことだと思います。
西田 はい、AI、IoTをはじめこれらのデータを用いた定常業務を全拠点に展開した事例は皆無に等しいのです。人の手により入力されないデータは、恣意的にデータを選択して自身の正当性を裏付けるために使われる結果、実態を見誤るリスクがあります。実際にPOC(実証実験)において、IoTデータに基づいた分析結果を提示したのですが、クライアントの担当者が望む答えと乖離したものが出たため、改善策を提示しても実行してくれなかったという経験があります。クライアント内部にいるステークホルダーの組織的、個人的な利益を達成して初めて、展開が検討される状態にあるのが実態というわけです。
河合 とてもわかります。最初から結論ありきのDXとPOC (実証実験)がなされている。本来、データは嘘をつかないはずなのに、そうではないというのは企業変革にとって「極めて重要な示唆」ですね。それらがもしも、企業KPI (業績評価指標)の基礎データとなっているとしたら、これほど怖いことはありません。
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