アパレルは「丸ごと消滅する」産業か? 世界のDX化に乗り切れないリアルな理由と本質的解決策

河合 拓 (株式会社FRI & Company ltd..代表)
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データをもとに分析とアクションのシナリオを決め、徹底的に運用する

luamduan/istock
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西田 私どもが企業変革をお手伝いする中で目の当たりにした実態は、ほとんどの企業が本来活用すべきデータを使っていないということです。

 例えば、店頭・ECの商品販売データからマーチャンダイジング(以下MD、商品政策のこと)を組み立てますよね。その際、MDに対するデジタル支援機能も、本来ビッグデータ活用のシナリオが組み込まれ、アップデートされるべきです。ビッグデータには顧客の動きが入っており、最新の技術を使えばそれらがしっかり理解できるからです。

 ところが実態は、昔ながらの単なる商品動向からの予測であったり、例えばビッグデータを使っていても、仮説(計画)検証(実績)が場当たり的に行われるなど、「意思決定とアクションの因果関係」の説明ができない企業がとても多いのです。

 結果的にデータベースが社内組織のステークホルダーの意思決定の正当性主張の道具となってしまい、都合のいいデータ集計と解釈に利用されているケースが多いようにも見えます。

河合 全く同感です。私も、MD業務というのは個別企業、個別事業の差別化要因の根幹であり、また、それゆえビッグデータと連係して調達も行うべきという立場です。私はDigital MDと呼んでいます。ところが実際は、まずは顧客不在の商品動向で、商品をセンターにぶち込んで、そこから販売になってはじめてビッグデータがでてくる。

 私は、極論をいえば、もはや工場とか店頭とかいうバリューチェーンの括りさえデジタルによって消滅するし、そのように考えなければスマートファクトリーもできないという立場です。例えば、店頭で『なんでも10日以内に受注生産で供給可能ですよ』と何も考えずに売りまくれば、当然、工場のキャパシティをオーバーした場合、その約束は果たされない。私はアパレルが半製品在庫リスクを持って、工場のユーティライゼーション(稼働率)を見ながら、店頭で接客とデジタル連動させるというイメージを持っています。実際、オンワード樫山の「ザ・スマートテイラー」はそのように自社の販売と工場のシームレスな連携で、信じられないほどの短納期でパーソナルオーダーができている。これはいわゆる製販分離型のバリューチェーンではなし得ない技ですね。

 また、不完全なデータを使った分析が結果的にステークホルダーの都合の良い解釈になっているというのは、初めて聞きましたが、ありそうなことだと思います。

にしだ・たけし Ridgelinez株式会社Consumer Products, Distribution & Retail Services Practice Leader 約30年にわたり消費財のリテーラー、卸・メーカーの情報システム企画・導入をサポート。近年はDXをテーマにお客様の内外部の環境変化やビジネス課題を分析し、長年培った業務ノウハウ・システム知見によりプラクティカルな解決施策を提案。 富士通の営業、SEを経て、2000年よりコンサルティング業務に従事。富士通総研を経て、現職。
にしだ・たけし
Ridgelinez株式会社Consumer Products, Distribution & Retail Services Practice Leader
約30年にわたり消費財のリテーラー、卸・メーカーの情報システム企画・導入をサポート。近年はDXをテーマにお客様の内外部の環境変化やビジネス課題を分析し、長年培った業務ノウハウ・システム知見によりプラクティカルな解決施策を提案。 富士通の営業、SEを経て、2000年よりコンサルティング業務に従事。富士通総研を経て、現職。

西田 はい、AIIoTをはじめこれらのデータを用いた定常業務を全拠点に展開した事例は皆無に等しいのです。人の手により入力されないデータは、恣意的にデータを選択して自身の正当性を裏付けるために使われる結果、実態を見誤るリスクがあります。実際にPOC(実証実験)において、IoTデータに基づいた分析結果を提示したのですが、クライアントの担当者が望む答えと乖離したものが出たため、改善策を提示しても実行してくれなかったという経験があります。クライアント内部にいるステークホルダーの組織的、個人的な利益を達成して初めて、展開が検討される状態にあるのが実態というわけです。

河合 とてもわかります。最初から結論ありきのDXPOC (実証実験)がなされている。本来、データは嘘をつかないはずなのに、そうではないというのは企業変革にとって「極めて重要な示唆」ですね。それらがもしも、企業KPI (業績評価指標)の基礎データとなっているとしたら、これほど怖いことはありません。

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記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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