あなたの会社はいくら?いよいよ始まるアパレル大買収時代と正しいデューデリジェンスの手法
あなたの会社はいくら? デューディリジェンスの全貌
しかし、アパレル業界に至っては、一部のエリートビジネスパーソン以外は、「投資とは、投機的商品に手を出すことと同義だ」と考えている人も少なくない。
前置きが長くなったが、今日は、企業買収の前提となる、本質的な「企業価値算定」に分かりやすく迫りたいと思う。
本論に入る前に、アパレル業界におけるM&A (企業買収) とDX (デジタルトランスフォーメーション)の問題点について軽く触れたい。この両者に共通しているのは、企業戦略と事業オペレーションとがまったく切り離され、言葉だけが先行しているということだ。
わかりづらい専門用語でお茶を濁し、「なぜ売上が上がるのか」「なぜ利益が上がるのか」「そこの因果関係は何か」という根源的な質問を考えもせず、例えば、「ディープラーニングやクラウドの意味が分かった」ことと、DXを使った企業価値向上を混同しているといったら言い過ぎか。
私が本連載でDXについてほとんど語らないのはそういう背景があるからだ。実際、今の私の仕事は、極めて優秀なマネジメントチーム、おそろしく有能なデジタル担当者とタッグを組み、基本的な競争戦略論をベースにテクノロジーの議論を進めている。この企業は、やがて日本の覇者となるという強い実感を持っている。
しかし、私はそうした「虎の巻」を語らない。DXについて書けば本連載のPV数はさらに爆発的に上がることも分かっているし、私の仕事も増えるのだろうがそれはしない。強烈なアクセルだけのクルマは危険で運転ができない。誰かがブレーキ役をやらなければという思いからだ。私の貧乏性は一生直らないだろうと思う。
話を戻すと、M&A の世界も似たような状況だ。TOB、EBITDA、Private Equityなど横文字が極めて多い業界だ。アメリカの映画「プリティ・ウーマン」や「ウォール街」、NHKの「ハゲタカ」などの、投資家は悪魔なのか、天使なのか分からない描写に日本人は洗脳され、他人事だと思って雄弁に、M&Aを語ってきた。ところが、いざ自分の身に降りかかると、とかくトンチンカンなことを言いだすものだ。
例えば、資金難に陥ったあるアパレル企業の役員は、舌の根も乾かぬうちに「リストラせずになんとかならないか」「この会社が我々の会社を欲しいと言っているが大丈夫か」など相談を持ちかけてくる。中には「コンサルに頼むとリストラされるから、人権派コンサルに頼もう」など、その本質を理解していないことが丸わかりな質問を投げてくる人もいた。
「自称人権派」である私は、興味を持ち、その「人権派」に会ったのだが、単に金を引っ張ってくるだけの人だった。私の再生手法は、オペレーションを変え、その会社が自分で稼いだ金で生きて行けるようにするものだ。その期間までの繋ぎとして「お金」を引っ張ってくる必要がある。彼らは目的(自立すること)と手段(お金を引っ張ってくること)が全く逆なのである。彼らに共通しているのは、ダラダラしている間に借金を増やし、それが再生であると勘違いし、もはやどうにもならなくなって相談にくるというものだ。その末路は、金融主導でどこかの傘下入りである。
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