ウィズコロナ時代のショッピングセンター経営21 SCの定義や「あるべき論」からの脱却が、コロナ後を生き抜くのに重要な理由
キーテナントの定義とは
前述のSCの取り扱い基準にキーテナントというものが登場する、過去、SCには必ずキーテナントが存在した。「キーテナントとは、当該 SC の商圏・客層を決定する大きな影響力を持つ大型小売店舗であり、業態は、略称を採用した。Dpt:百貨店、GMS:総合スーパー、SS:大型スーパー、SM:スーパーマーケット、HC:ホームセンター、DS:ディスカウントストア、Dgs:ドラッグストア、生協:生活協同組合、と分類した」とSC白書(日本SC協会)に記載されている。
SC用語辞典(日本SC協会)では「キーテナントとは、店舗などの賃貸ビルのテナント(賃借者)のなかで、その施設の中核となるような機能をもつ重要なテナント。ショッピングセンターの場合には、百貨店や総合スーパー、専門店の旗艦店など、そのショッピングセンターの商圏や客層を決定する重大な影響力をもつ大型店で、当該ショッピングンセンターのなかで最大の売場面積を有するもの。核店舗、アンカーテナントまたはアンカーストアともいう」と説明されている。
この2つから読み取れるのは、キーテナントとは業種業態に関わらずSCや商圏に影響力を持ちSC内で最も大きな店舗となる。
キーテナントの変化とキーテナント不在論
米国で発達したSCは、過去、ノードストローム、ニーマンマーカス、サクスフィフスアベニューなどの百貨店やシアーズやメイシーズやJCペニーなどのGMSがキーテナントとして存在していたが、今はコロナ禍で破綻を迎えるところも出ている。
今、日本でも百貨店やGMSが存在しないSCも多いが、その転機は2000年に訪れる。
2000年は、大店法の廃止と大店立地法の施行、定期借家契約の登場、資産流動化法の整備などSCを取り巻く環境が大きく変化する一方、百貨店やGMSの隆盛に陰りが見え、キーテナントに頼らず専門店だけのSC開発が一般化する。
2000年、グランベリーモール、アクアシティお台場、御殿場プレミアムアウトレット、イクスピアリ、ラ・フェット多摩、渋谷マークシティなどが開業するが、どのSCにも百貨店やGMSは存在しない。
面白い話がある。90年代後半、百貨店やGMSがなどのキーテナントを含めず計画していたグランベリーモールのプランを見て、当時の流通のプロ達は一様に「どうやって集客するのか」「核の無いSCがうまく行くはずはない」果ては「絶対失敗する」とまで酷評した。しかし、いざ開業してみれば前出の2000年開業のSCは全て好調なスタートを切り、今も順調に営業を続け、増改築や建て替えも進み皆健在である。
これは、それまでの既成概念や定義を破ったからこそ成功した証左であろう。
ポストコロナは「あるべき論」を捨てる時
百貨店には、「ラグジュアリーがなければならない」「フロア構成は性別でなければならない」「契約は賃貸借では無く消化仕入れでなければならない」「食料品は地下でなければならない」「コスメが1階になければならない」「オンラインでも接客を続けなければならない」「このテナントは入れてはいけない」などの「あるべき論」が存在しないだろうか。
SCも「差別化しなければならない」「新業態でなければならない」「接客ロープレをやらなければならない」「売上金は預からなければならない」「クレジットは包括加盟をしなければならない」「営業時間は統一でなければならない」などの既成概念や作られた定義に縛られてはいないだろうか。
最近、営業時間や店休日の統一に一石を投じたSCが現れた。これが成功するかどうかはまだ分からない。しかし、ポストコロナ、どれだけ「あるべき論」や「自らで作った定義」、これを打ち破れるか、そこに成否がかかっている。
西山貴仁
株式会社SC&パートナーズ 代表取締役
東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員、渋谷109鹿児島など新規開発を担当。2015年11月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。岡山理科大学非常勤講師、小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、宅地建物取引士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒、1961年生まれ。
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