規模の利益を生み出すため、機能と人材を強化する=原信ナルスHD 原 和彦 社長
利益生むため川上へ最低でも200店舗が必要
──経営統合によるメリットは、具体的にどのようなことを考えていますか。
原 やはり、商品面でのメリットが一番大きいしょう。ただ、これは最終的な話です。
流通先進国の米国で、消費者が豊かな暮らしを享受できているのは、SMがスケールメリットを生かし、消費者に利益を提供しているからでしょう。米国の経験則からすると、スケールメリットを生み出すには、最低でも200店舗という規模が必要なります。
ただし、規模さえあればいいわけではなくて、そこには機能が必要になってきます。物流やITなどの機能を持って、規模を生かしきる。さらに、人材も必要になります。
われわれは、卸さんやメーカーさんから商品を仕入れて、それを売るだけの機能しかありませんが、米国のように、SMがお客さまに利益を提供できるようになるには、川上の原材料の調達までさかのぼれるようになっていかなくてはなりません。
ところが、その原材料や製造などの知識を持っている人材は、今のチェーンストア業界にはほとんどいません。垂直統合までいかなくても、それに関する知識や技術を持っている人材をもっと育てていく必要があります。
スケールメリットを生み出すのは、70店舗、1000億円の売上ではとてもできません。200店舗という規模をめざすための経営統合なのです。
──今回の経営統合に、生き残りのためという目的はあったのですか。
原 業界内での競争が激しくなっていますから、生き残りのための経営統合というのは、わかりやすいかもしれません。
確かに、そういう危機感もないわけではありません。けれども、今回の経営統合はただ生き残るだけではなくて、何よりもチェーンストア産業に従事している人間として、社会に貢献したい。「この会社のおかげで、地域の暮らしが豊かになった」と地域のお客さまから言っていただけるような存在になりたいのです。
端的な例を挙げると、「ユニクロ」さんに「ヒートテック」という商品があります。あのような防寒機能を持つウエアは、今までありませんでした。この商品のおかげで、わたしも冬を快適に暮らせるようになって、ありがたいなと思っています。そう思っている消費者は少なくないでしょう。これは、企業にそれだけの規模があり、機能があり、そこに人材が揃っているからこそできるのです。
われわれには、SMとしてそこにチャレンジしていきたいという思いがあります。原材料の調達から店頭までをプロデュースできる機能を持つグループにしていかなければならないと考えています。
──経営統合には、メーカーに対する交渉力が高まるというメリットもありますか。
原 今まで売上規模が1000億円だったのが、2000億円になりますから、条件面でメリットは出てくるでしょう。けれども、それはある意味では小手先のメリットにすぎません。もちろん1つのステップではありますけれども、それだけが目的ではありません。世の中に貢献していくためには、そこで終わっては何にもなりません。
──川上まで手がけるSM企業は、まだ少ないのではないでしょうか。
原 いえ、そんなことはありません。すでに、メリットを生み出している企業があります。むしろ、われわれは周回遅れだと思います。だからといって、慌てているわけではありませんが、先を行っている企業が出てきている事実は認識しなければいけません。
もはや、取引先からどれだけ安く仕入れたかといったことに終始する時代ではないと思います。これからは、規模や機能や人材をしっかり持ったチェーンストアが生き残ることができますし、そうでないかぎり、世の中には貢献できないのではないでしょうか。
──川上の知識や技術を持つ人材はどのように育成していきますか。
原 われわれが30年来取り組んでいるTQMがあります。さまざまなサービスや商品をよくしようという活動です。これを通じて、徹底的に人材を育成していこうと考えています。
ただ、われわれが携わっていない分野もありますから、すべて自前で人材を育成できるとは思っていません。場合によっては、別の業種から人材を確保していくこともあると思います。今のところ、具体的な話はまったくないですけれども、将来的には別の業種と統合していくという選択肢もあるかもしれません。