三井物産アイ・ファッションと日鉄物産繊維部門の合併は産業再編の序章となりうるか?

河合 拓 (株式会社FRI & Company ltd..代表)
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これからの商社は、固定費を軽くしなければ生き残れない

 考えてみてもらいたい。もはや中国のエリートは、我々日本人の頭脳を遙かに超え、語学力もデジタル開発力も遙か彼方、先にいっている。20年前の「中国は人件費は日本人の1/20」などという過去の常識は全く通用しないことを幾度も述べた。彼らは、日本語も英語もペラペラで、外貨送金さえしてもらえば、LDP (日本国内渡し)で、商品を直貿で生産してくれる。

 強烈なトップ主導で改革を進めているオンワードホールディングスは、海外複数拠点で仕入を行い、自らコンテナーを立てて船積みを行っている。生産についていえば、セル生産とクラウドを活用したバイオーダー生産を行いZOZOの生産を受託しはじめ、商社を驚かせた。本来、こういう仕事は商社のものだからだ

 「貿易実務は商社マンの方が上」というのは昔の話であり、今は、商社を使うメリットは、展示会でアパレルに企画のファーストキック(最初のきっかけ)を与える程度だ。アジアの激しい成長の結果、商社など使わなくとも言語も貿易もすべて中国の工場とアパレルがタッグを組めば楽勝で「直貿」ができる時代になったとアパレルはみないっている。商社は、本気で次世代の自らのあり方の戦略を描けなければ、「茹でガエル」と化している。

 Too big to fail (合併させて大きくすれば生き残れる)というのは、今は昔。今は、too big to survive (固定費を軽くしなければ生き残れない)なのだ。デジタル武装した中国工場と日本のアパレルの間に入るには、利益を我田引水するのでなく、バリューチェーン全体の最適化を図る正しい戦略とステップ、利害関係者調整をトップ自らが行うべきなのである。

 再三警報を鳴らしていた金融主導による統合はこれからも進むだろう。現在、水面下では本業集中によるカーヴアウト(非本業事業の切り離し)があちこちで起きている。このままでは、日本のアパレル産業は崩壊する。日本人の衣料品はユニクロ、無印の二社、および、小さなD2Cや好感度セレクトを除き、外資になる。

 もはや金融機関の下支えは限界に達し、不良債権化したファンドがその受け皿になっており、古くは、銀行、百貨店の統合などのように、世の中から重複している機能を消失させ業界の需給バランスを平常化させるというのが金融論理である。市場へのオーバーサプライ(過剰供給)は、金融主導の業界再編により需給バランスが均衡することになるだろう。

 何度も言うが、競争環境の変わり目は戦略無き企業は滅んでゆくことになる。今回の統合が成功することを元商社マンとして祈るしかない。Too big to fail はもはや古い。Too big to surviveが実態である。

 

 

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プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)

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記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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