三井物産アイ・ファッションと日鉄物産繊維部門の合併は産業再編の序章となりうるか?

河合 拓
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私が人生に3度経験した買収劇

  昔、私がある会社に勤めていた時、私の所属する事業部は、売上の75%をある巨大企業に依存していた。しかし私がいた会社は、別の企業に買収されてしまう。その際、買収先の会社は「君たちの得意先は、もはや君たちとは仕事をしたくないと言っている」と言い、商権を奪っていった。事業だけいただけば、働く人間は邪魔、というわけだ。

 私がそこで見た光景は驚くものだった。競合企業をスクリーンに映し出し、「これらの企業の上位5%が使える人間で、あとの95%はババ抜きでいえば、ババだ。この上位5%を捕まえよ」という話をしていたのだ。また、中堅企業に至っては、「成長が見いだせない日本市場では、事業を拡大することは困難であり、M&A(合併・買収)をする方が手っ取り早い」という。その極めて合理的な「金融の論理」に、当時事業価値を上げることしか考えていなかった私は驚きを隠せなかった。

 「大将は、戦場に真っ先に出て、最後に戻る」というのが私の信条である。桁外れの売上ノルマを達成できないと判断された私自身もその会社を後にせざるを得なかった。

 この経験から、私は、成長市場から成熟市場へ、そして、衰退市場に移行している日本の中で、「金融主導の業界再編が起こる。その前にしっかりした成長戦略をつくれ」と幾度も警報をならしてきた。私を育ててくれた繊維、アパレル産業、そして、日本独特の業態である総合商社を救済したい。私の思いは、その一点だった。

 その間、訪問した企業は20をくだらない。しかし、この3年、何らアクションはおきず、あちこちでPLM (商品ライフサイクルを管理するソフトウエアパッケージ)が自前主義で導入され、個別最適が繰り返される様をみてきた。CPFR(バリューチェーン全体が共同で計画を立て、予測をもとに商品供給をする究極のサプライチェーンの発展段階)という言葉さえ知らない人達が業界再編を主導している。戦略無き自前主義でデジタル改革を行う恐ろしさを感じていた。

 そして、冗談のようなことがあちこちでおきている。例えば、バリューチェーンの中にPLMが2つも3つもある。また、ある商社では、使用用途も分からずAIモジュールを入れたが、どうやって使えば良いのかという企業もあった。信じられないような話だが全て本当だ。

 このようなことをしていれば、喜ぶのはデジタルベンダーだけで、業界全体の効率化は達成できない。PLMというのは、クラウド技術により、何十社、何百社が同時に「一つのパッケージ」を操作することで、産業エコシステム全体が、一つの商品マスター、素材マスターを共有することで、極めて破壊力を出すソフトウエアなのだ。すでに、こうしたマルチ・ベンダー、マルチ・アパレルが「デジタルハブ」を活用し、業界全体が最適化を行っている。

 

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