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アフターコロナをアパレル産業が生き抜くための起死回生策「マルチプラットフォーム戦略」の全貌

危機的状況にあるアパレル。アフターコロナの様変わりする時代を生き抜くための戦略が、大合従連衡によるマルチプラットフォーム戦略だ。後半の今回は、いよいよこの戦略の全貌を公開したい。 

「うちの原価率は60%、だから原価低減すべき」
の誤りとは?

 前回、百貨店のオムニチャネル戦略が誤りだった理由を、マルチプラットフォーム戦略の本質である「勝てる戦略」に照らし合わせ、明らかにした。百貨店の成長戦略については、私の新著にゆずるとし、私の戦略は、こうした誤った戦略を正し、焼け野原となった日本に攻めてくる進駐軍を味方につけ、むしろ彼らを利用して成長してゆくための「戦略」を持つというものである。

 考えてみれば、アパレル企業は80年代後半の「DCブーム」という神風が吹き、業界全体が儲かるような市場ができあがっていた。しかし、売上が落ちてきた昨今、市場規模や競争環境を分析してゼロベースで戦略を練るという基本をないがしろにし、往時のやり方を続けてきた。必要以上の在庫を仕入れるものだから、期末にライトオフ(滅却処理)仕切れずにバランスシートに残し、さらに大枚をはたいて店舗を増やしたり、無意味な改装をしたりして現金を減少させたのだ。これらはすべて成長している市場の戦略である。縮小している市場では、これらの戦略はすべて真反対に動くのだ。こうした誤った戦略にコロナでとどめを刺されたのである。

 たとえば、ある年商1000億円企業の経営者はこんなことを言っていた。「うちの原価率は60%近くある。これを1%ポイント減らすだけで6億円もキャッシュが出る。原価低減をすべきだ」と。しかし、この考えはとんでもないあやまりである。

 アパレル企業の「企画原価率」(4KPIの一つ)は、すでに売上対比で20%代まで下げており、品質劣化は著しい。今勝っているユニクロやワークマンの「企画原価率」は、上代比率で40-45%程度といわれており、コスパは原価だけみても倍ほど違う。それなのに、一般のアパレル企業が企画原価率をさらに下げたらどうなるか。薄暗い店内で、食材も冷凍ものばかり、味がまずくて客がどんどん減ってゆく、そんな昔ながらのチェーン居酒屋のようになるだけである。

「ユニクロと同じ商品回転率」が無意味な理由

2020年 ロイター/Kim Kyung-Hoon

 正しい分析を行えば、企画原価率が20%で、損益計算書の原価率が60%なら、その差の40%は、「値引き」と「ライトオフ(商品滅却)」なのである。つまり、仕入れ先を虐め品質劣化をするのでなく、自社商品の値付けを工夫し、商品ライフサイクルの短い「博打商品」の割合を減らし、売れていた時代のQR (Quick Response)を直ちに辞め、私が提唱するZARA型のタパス小皿料理型MD、つまり「売り切り御免型」にすべきなのである。

 また、デジタルベンダーがよく使う、判で押したような「商品生産のリードタイムを短縮せよ」というのも誤った考え方だ。もちろん、無駄な会議や意味の無いサンプリング(今は3D CADを使った修正が世界基準)は撲滅すべきである。しかし、今は、しっかりと時間をかけて、素材から開発した商品の方が売れる。商品回転率が高いか低いかによる評価というのは、どのような消費者に価値提供するかという戦略によって決まるのだ。もし、商品回転率が高ほうがよいなら、なぜ、ユニクロのように長期開発型で商品回転率が長い企業が世界企業になっているのか説明できないだろう。

 ファーストリテイリングは、回転率をあげようとしているが、それは、生産工程の70%をオートマチックにするという超絶なスピードを前提にしたものなのだ。同社は、社内メールは3行以内で、会議は30分がデフォルトである。こうしたスピード経営を可能たらしめるためには、「社内評論家」は追い出されることになる。自ら徹底して準備をし、30分の会議にあわせて自分の提案や意見をまとめる事前準備に何日もかける必要があるからだ。
 それに対して、多くの日本企業はなんの準備もせずに会議に出て、そのとき思いついたことを脈略無く話し、否定されたら恨みを持って返り血を浴びせるという幼稚なことばかり行っている。
 こうした結果長くなる回転率とユニクロの回転率では、似て非なるものであるということを知るべきだろう。指標というのは、その裏にあるロジックと現場の実態が大事なのであって、そのロジックを把握や実態を把握することなく、闇雲に昔の指標を追いかけてもダメなのだ。

 別の事例も紹介しよう。経営トップが正しい戦略を言い続けても、執行役員以下が、それを正しく理解せず、現場もまた混乱しているというケースだ。トップが、「ここに商機がある、ここを攻めよ」と号令をかけても現場は動かないのだ。キックオフだけは勇ましく始めるのだが、入念な準備もなく、とりあえず会議を繰り返す。繰り返しているうちに現場は結論のでない、論点の定まらない会議にむなしくなって、一人、二人と抜けてゆき、最後は担当役員が「忙しいからお前がやれ」と現場に投げフェードアウトするパターンだ。
 しかし、このケースは救いようがある。なぜなら、経営がどこに行きたいかという明確なゴールを持っているからだ。こうした場合は、ぜひコンサルタントの活用を検討してもらいたい。たとえば、こういうケースにおいて私が果たす役割は、経営の意図をしっかりくみ取り、現場用語に翻訳し、バイトサイズ(噛むことができる大きさという意味で、「乗り越えられるステップ」)に分解し、時に迷っている人を助けながらハンズオンで目標達成までの道程を一緒に併走する。私は、業務もできるから、時に見本や手本を見せることも可能だ。決して、報告書だけ出して立ち去るコンサルにはできない芸当だと自負している。

マルチプラットフォーム戦略とは?

metamorworks / iStock

 私が提唱する「マルチプラットフォーム」とは、企業間を超えた合従連衡をつくることである。ユニクロは国内だけで1兆円の売上があり、もはや規模の経済でも自動化でも日本のアパレルは追いつけないほど遙か彼方に行ってしまった。

 しかし、仮に1500億円の企業が5社集まって、共通部分を共有化すればどうなるか。7500億円の企業連合ができあがり、規模だけでいえばファーストリテイリングと遜色ない。他の産業、たとえば自動車産業では当たり前に行われている複数の企業群による連合をつくるのだ。企業の人事、総務、経理などはどこもそれほど特異な仕事をしているわけではない。それなのに、「専用伝票」などという奇妙な5枚複写の伝票がばらまかれOEMを受託している商社は、数百とある専用伝票の手書きと違算処理だけで恐ろしいほどの人件費を使っているのだ。

 他産業では、こうした業務は競争相手とでさえ標準化している。それらをアウトソーシングし、自社の固定費を変動費化することで不況でも戦えるコスト構造を持ち、世界化を遂げているのだ。さらに、アパレルの営業活動に目を向ければ、素材、物流、工場背景などは、数十もある赤字ブランドがバラバラに発注するのでなく、これらを纏めて大きなな塊で発注すればバイイングパワーもいかせる。こうした検討は実は30年前から行われ、アパレル企業の中に生産会社を別機能として持ち、発注をまとめる動きがでているが、全くうまくいっていない。

ZOZOも失敗!
ものづくりをなめてはいけない

 理由はシンプルで、その生産会社は事業部の「いいなり会社」になり、事業部の言うとおりに右から左に発注を流しているだけだからである。酷い例になれば、その生産会社は商社に発注し、なんのための生産管理会社なのかわからない状況になっている。なぜこのようなことになっているかといえば、経営にリーダーシップが無く組織設計が悪いからだ。本来、生産機能というのは事業部からのリクエストに対して逆提案をしたり、新しい生産拠点を開発したり、全く新しい発想で生産フローを組み替える機能が必要で、そのためには、事業部と並列、時には事業部以上の権限が必要なのである。

 また、適切なKPIを設計できる会社にも、お目に掛かったことがない。酷いケースになると、「バングラデッシュで100枚二週間でつくれ」とムチャを生産会社に投げ、同じ組織からの上司からの命令だということで、仕入れ先や商社を間に入らせて、簿外在庫や口約束による過剰発注をしてFOB(海外仕入れ単価)に加えるということもやっている。

Photo by GCShutter

 日本でPLM (Product Lifecycle Management パッケージ)が入らない理由は、こうしたいびつなバリューチェーンをデジタル化し、見える化すれば、こうした数々のルール違反が白日の下にさらされるからだ。本来、生産側は、「それは無理だ、代わりにこういうことをしてほしい」とか、在庫を事業部が残した場合、その在庫責任を事業部につけるルールが必要なのである。だから、自社内に生産会社をもっても、自社(売場)の都合のよい形でものづくりを軽視するため、このようなドタバタ騒ぎが起きるのだ。ZOZOが以前、スーツを二週間で作りますと大風呂敷を広げたが、最後は納期が2ヶ月以上になったことを思い出してもらいたい。「ものづくりをなめてはいけない」ということである。

顧客視点でマルチプラットフォームを構築せよ

ConceptCafe /iStock

 販売物流も、今は20%が再配達で、空気を積んだトラックが、何台もショッピングモールに向かっている。なぜ、こういう非効率な領域を纏めようとしないのか。私が提唱するデジタルSPAを使えば、自動で解決してくれる。私は、現在、PTCというPLM (Product life cycle management)のパッケージ企業のボストン本社と直接コミュニケートし、世界のバリューチェーンの情報交換をやっている。彼らは、すでに、一元化をするソフトウエアの導入手法、3D CADを使ったサンプリング、そして、なんと、バラバラ配送する物流までまとめ上げる仕組のソリューションを持ち、連携しているのだ。

 私は、こうしたデジタルツールを商社が導入し、クラウド化して海外の工場や日本のアパレルにSaaS(Software as a Service)で提供する、マルチベンダー・マルチアパレルのデジタルプラットフォームが商社の生き残る唯一の道だと思っている。

 上から目線の物言いで恐縮たが、今のアパレル業界が産業崩壊に追い込まれたのは、まさに「戦略軽視」と「自前主義」だ。アパレル産業は、歴史的にあまりにオペレーションだけを追いかけ、お客様を見ず、リテール先進国という理由だけで「アメリカ様」を見てきた。そして、日本と自社固有の事情を無視した安直な発想でデジタル化を推進しようとしてきた。また、社員は自分の上司の顔色を見て仕事をしている。

 こうした組織にあるのは「顧客不在」だ。結果、バリューチェーン全体の利益を平等配分するという40年前からいわれてきた「全体最適」は、かけ声だけとなり、各社それぞれ「自社だけが儲かればよい」という発想でデジタル化を進めてきた。これでは成功するはずがない。

 産業は、新陳代謝を繰り返す。だから、消えゆく産業はどんなターンアラウンドマネジャーでも救いようがない。だが、この業界の人材も、捨てたものではない。最近、商社からの講演依頼が多いのだが、若手社員の中には「自分はまだ無力だが、このデジタルSPAに自分の人生をかけたい」といってくれる人たちがいる。そういう声を聞くたび、私はあきらめないつもりだ。

 

 政府はのんきに、「これからはコロナと共存する」などといっているが、これは「根治」をめざすことをあきらめているということだ。つまり、「グレーの人」は、これからも日本でウイルスをまき散らし、これを放置するということである。
 また、「第二波」「第三波」など、政府は、まるでコロナが「竜巻」の如く我々に襲いかかってくるような印象操作をしているが、そんな「竜巻」など存在しない。単に「グレーの人間」を放置しているがゆえ、彼らが、あちこちでウイルスをばらまき、そのウイルス感染が拡大することを「XX波」などと呼んでいるだけなのだ。つまり、「竜巻」を巻き起こしているのは日本政府に他ならない。我々はもっと「言葉」の持つ意味をしっかり読み解き、印象操作から逃れられるだけのリテラシーが必要なのである。
 おそらく今回が、アパレル産業が生き残るための最後の提案になるだろう。

 

プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)