イトーヨーカ堂(東京都/山本哲也社長、以下IY)は2月中旬から衣料品の新平場ブランド「ファウンドグッド」の展開を始めた。企画・生産するのはSPA(製造小売業)型専門店チェーンのアダストリア(東京都/木村治社長)だ。同社はイズミ(広島県/山西泰明社長)にも専用ブランドを供給している。アダストリアは総合スーパー(GMS)の衣料品の救世主となるのだろうか。
衣料品の核売場として7月までに64店へ拡大
「ファウンドグッド」はIYの衣料品売場で展開する新ブランド。ターゲットは30代~40代の子育て世代。婦人、紳士、子供のカジュアルウエアを中心に、シューズやバッグ、帽子といった服飾雑貨やインテリア小物、キッチン用品、トラベル用品など生活雑貨を展開する。
2月15日に都内のイトーヨーカドー木場店や神奈川県の立場店など5店でスタート。4月24日現在で東京、神奈川、千葉、埼玉の首都圏を中心に山梨、静岡、兵庫を含め47店に広がった。同月にはゾゾタウンにも出店。7月までに婦人服を扱うイトーヨーカドー64店に拡大する。
売場面積は100~200坪を中心に、食品売場の横や子供服がある3階など、売場の広さや配置場所を変えてさまざまなパターンを試みている。
カテゴリー別の構成比は婦人45%、紳士25%、子供5%、服飾雑貨20%、生活雑貨5%。価格帯はボトムス2900~4900円、ブラウス1900~3900円、カットソー900~4900円、アウター3900 ~9800円。ユニクロの価格を意識しながら、アダストリアが展開する「グローバルワーク」や「ニコアンド」に比べ1~2ランク下のレンジに収めている。
商品はシンプルでありながら上下の組み合わせでサマになるスタイリングやファミリーコーディネートのしやすさを意識。吸水速乾やアンチピリング、家で洗えるといった機能性も重視した。
IYは最終赤字が続いており、経営再建のため北海道と東北、信越地方から撤退するなど 2024年2月末時点で123店だったイトーヨーカドーの店舗数を26 年2月末までに93店に縮小する。
また同時期までに自社企画の衣料品から撤退する。肌着や紳士トラッドの「ケント」、アパレルメーカーのクロスプラス(愛知県/山本大寛社長)が供給するオケージョン対応の婦人服「ギャローリア」など他社企画の一部ブランドは残す。「ファウンドグッド」はその空いたスペースに売場を設ける。
売場演出から接客まで、あらゆるノウハウを提供
「ファウンドグッド」をIYに商品供給するのはアダストリアだ。 BtoB(事業者間取引)事業を統括するビジネスプロデュース本部が主導し、小売業他社と協業するリテールプロデュース部が担当する。同部はGMSのイズミに22年9月から商品供給している衣料品の専用ブランド「シュカ」も担当している。
IYとは約1年半前から協議を続けていた。食品売場を訪れたお客が衣料品売場を三十数%しか買い回っていなかったため、足元商圏の30代~40代のお客を引き付けるライフスタイル提案型のブランドを開発。商品の供給だけでなく、売場演出や販促、接客、売場づくりのノウハウもIYに提供する。
マーチャンダイジング(MD)は2週間に1回新しいものを取り入れる26週MDで運用。アダストリアのマーチャンダイザーが在庫データの連携による週別の在庫配分調整などを支援する。
比較的大型の4店(木場店、東大和店、大和鶴間店、松戸店)はモデル店に設定。最大店は3月15日にオープンした東大和店(神奈川県)で250坪の売場を擁し、カフェも併設している。
これらを含め売場内装や空間演出、独自仕様の照明やマネキン、ハンガーを導入した主要14店(国領店、大森店、甲府昭和店、溝ノ口店など)には、アダストリアの各ブランドで経験を積んだスーパーバイザーを配置し、現場で接客指導や研修を実施する。店内環境の整備には店舗デザインチームが入り、 SNS(交流サイト)であるインスタグラムでの情報発信もプレスチームが行う。
こうしてアダストリアがサポートする主要14店で成功体験や成功事例を積み重ね、それを他店にも広げていく。3~4月はテスト販売と位置づけ、仮説と検証、修正を繰り返す。本格的な展開は夏以降になるという。
商品企画と生産もアダストリアが担当する。同社の主要ブランドである「グローバルワーク」や「ニコアンド」「ベイフロー」などで築いた自社の生産ラインを利用することはもちろん、パートナーの繊維商社などとも協業。ブランドの開発から商品企画、生産、物流、販売までをグループ内で一貫して行う同社のバリューチェーンを最大限活用する。
ブランドの事業規模としては、売上高約500億円の「グローバルワーク」や300億円超の「ニコアンド」は別格だが、「ヘザー」「レイジブルー」といった 50店前後を展開する中堅ブランドと同等の体制を組む。
苦戦するGMSを救え、SPAプラットフォームを活用
アダストリアは26年2月期を最終年度とする中期経営計画で「グッドコミュニティの共創」をテーマに、さまざまな業界、業種、団体とつながって、同社が持つ企画、生産、店舗開発などバリューチェーンの強みを生かした BtoB事業を積極的に拡大する方針を掲げている。この分野ではすでにアパレルメーカーのワールド(兵庫県/鈴木信輝社長)が先行して成果を上げているが、いわば「プラットフォームビジネス」である。
その中核となるビジネスプロデュース本部は①学校や飲食店向けの制服、イベントのノベルティなどを制作するライフスタイル・クリエイション部、②今回のIYの案件を進めるリテールプロデュース部、③既存ブランドの出店や販売員のサポートをするブランドプロデュース部で構成。現在約40人の人員を抱え、約200 社と取引がある。
「今回のプロジェクトはこれまでのコラボレーションとは違う。単なる卸売と考えるのでなく、当社のバリューチェーンを最大限活用するなど、会社を挙げて自分事のように取り組んでいる。経営陣を含め全カテゴリーの部長、物流やシステムも含めたさまざまなメンバーが『GMSを救わなければいけない』という高いモチベーションを持ち、チームにも当社の精鋭を投入した」と執行役員でビジネスプロデュース本部長を務める小林千晃氏は力を込める。
GMSは00年前後からユニクロ、ニトリなどのカテゴリーキラーに売上を奪われ、かつての輝きをなくしている。
とくに衣料品の低迷は深刻で、日本チェーンストア協会によると、1992年に約3兆9000億円あった加盟企業の衣料品は23 年には2割以下の約7400億円に減っている。
各社は生き残りをかけて衣料品のてこ入れに動いている。イオンリテール(千葉県/井出武美社長)は婦人・紳士のカジュアル部門を子会社に移管・統合し、既存ブランドを刷新する形で3月から新たなSPAブランド「TVC」を自前で立ち上げた。
専門店やメーカーの力を借りる動きも広がっている。IYやイズミはアダストリアが企画する専用ブランドの供給を受けている。 GMSではないがスーパーセンターなど総合業態を展開するベイシア(群馬県/相木孝仁社長)はワールドと組み、婦人服「ヨリモ」を昨年秋から展開している。
アダストリアは今後もこうした支援ビジネスに前向きだ。「アダストリアにお願いすれば解決してくれると思われる存在になりたい」と小林氏は意欲を示す。
「ファウンドグッド」については「都心に行かなくても足元商圏にすてきな商品がたくさんあるというライフスタイル提案をできればと思う。ご縁があれば、コンビニエンスストアなどいろいろな業態にこのブランドが付けられればいいと思う」と話していた。
なお一部商品はセブン-イレブンの次世代型店舗「SIPストア」でも取扱う予定だ。