「外向き・上向き・前向き」に大転換せよ=日本チェーンストア協会会長 清水信次

聞き手:千田 直哉 (編集局 局長)
構成:小木田 泰弘
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──確かに東日本大震災からの復旧、復興は遅々として進んでいないように見えます。大型財政出動が必要不可欠というのはどのような考えが背景にあるのですか。

清水 野田政権は世界の国々から何も学んでいないと言わざるを得ません。これは霞が関の官僚にも責任があります。今は世界の国々との戦いです。人口はこの100年で50億人も増えて、資源や食糧の取り合い・奪い合いになっています。製造業も中国や韓国のグローバル企業と伍して戦っていかなくてはなりません。

 それを野田首相は「政治生命をかける」と消費増税の話ばかり。「内向き・下向き・後ろ向き」で国が元気になるわけがないでしょう。本当に情けないことです。

 どうしても増税すると言うのならばすればいい。ただし、増税するなら大規模な財政出動をしなければダメです。「内向き・下向き・後ろ向き」を「外向き・上向き・前向き」に大転換する施策が必要です。

 たとえば東日本大震災の被災者34万人はまだ仮設住宅や避難先にいます。それに被災地ではがれきも片付いてはいません。国はそういったところに大規模な財政出動をすればいいのです。そうすれば国内にお金が回りはじめます。建設業や運送業、流通にもお金が回って景気は今よりは確実によくなる。しかし国は3兆円、5兆円とちびちびしか出さない。

 韓国や中国を見てください。国が企業をバックアップして高い経済成長を実現しています。

 僕は先日、韓国の麗水万博を視察してきました。空港から万博開場までの高速道路の幅は広いし、コンクリートも分厚い。トンネルもとても頑丈につくられています。万博開場までは現代自動車製のクルマで移動しましたが、日本車に引けを取らない高品質・高性能のクルマでした。最新の製鉄所も視察しましたが、日本のそれと比べて規模が違います。見渡す限りの大工場です。韓国のサムスンや現代自動車やポスコといった企業は、韓国政府がさまざまな支援を行ってグローバル企業へと成長しました。

 中国も同じです。僕は昭和30~40年代に食品の輸入の仕事でよく中国に行きました。そのころの中国はとても貧しくて、男性も女性も詰襟の青色の人民服を着ていた。女性は坊主頭で化粧もしていない人が多かった。僕は最高級ホテルと言われる北京飯店に宿泊していましたが、出てくる料理が貧しくて1週間もいたら栄養失調になるかと思った。街の中には商店もなければ商品も何もない。そんな中国が今やGDPでは日本を抜いています。

 中国は今から30年ほど前、鄧小平(とう・しょうへい)さんが戦後日本の復興を目の当たりにして「改革開放」を進めたので経済が大きく成長しました。その際、お金はどうしたのかと言えば全部国が印刷したのです。道路や橋、鉄道、空港などは全部国がお金を印刷してつくった。国がやろうと思えばできるのです。

 中国や韓国は、高い経済成長を支えるための投資を惜しみません。両国は国内の各地の優秀な青年を北京や上海やソウルの大学に集め、国のお金で教育し、さらに優秀な青年は国費で海外へ留学させています。費用は全部国の負担で、何百人、何千人という規模です。同じようなことを日本もやるべきです。

 ほかにもやるべきことはたくさんあります。わが国の橋や道路といった社会資本はどんどん老朽化しています。大地震が起これば壊れるものが相当数あると思います。これを堅牢なものに整備することは急務です。同時に日本を観光立国にする。日本全体を観光国家にしようとしたら200兆円ほど費用がかかる。これはフランスやイタリア、スペインはみなやっていることです。

今後も国民生活にかかわる提言・要望を積極的に発信

──最後に、生団連の今後の活動計画について教えてください。

清水 12年度は、まずは大震災への備えとして、(1)東日本大震災で被災者が何に困ったのかを生活者起点で調査をしたり、(2)緊急時に生活に最低限必要な防災グッズを各家庭に備蓄する奨励活動を行ったりします。また、(3)事業者がサプライチェーンで連携し、緊急時においても生活者が生活必需品を不便なく手にできる仕組みに関する研究や、(4)政府等に対し国民の生活・生命を守るうえで必要な対策に関する提言を行います。

 ほかにも、電力問題への対応や会員サービスの充実、生団連の組織運営基盤の強化や社会的認知度の向上施策を行います。

──生団連の加盟企業数は増え続けている。

清水 そうです。11年12月の設立時は481法人でスタートしましたが、12年6月13日現在では、団体会員26法人、企業会員524法人、特別会員(消費者団体)3法人の計553法人まで加盟が増えています。生団連の設立趣旨が広く支持されているからだと考えています。

 今後も幅広い業界から生団連にご賛同・ご加盟いただき、政府や行政に国民の生活にかかわるあらゆる要望を積極的に発信していきます。

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聞き手

千田 直哉 / 株式会社ダイヤモンド・リテイルメディア 編集局 局長

東京都生まれ。1992年ダイヤモンド・フリードマン社(現:ダイヤモンド・リテイルメディア)入社。『チェーンストアエイジ』誌編集記者、『ゼネラルマーチャンダイザー』誌副編集長、『ダイヤモンド ホームセンター』誌編集長を経て、2008年、『チェーンストアエイジ』誌編集長就任。2015年、『ダイヤモンド・ドラッグストア』誌編集長(兼任)就任。2016年、編集局局長就任(現任)。現在に至る。
※2015年4月、『チェーンストアエイジ』誌は『ダイヤモンド・チェーンストア』誌に誌名を変更。

構成

1979年生まれ。2009年6月ダイヤモンド・フリードマン社(現ダイヤモンド・リテイルメディア)入社。「ダイヤモンド・チェーンストア」誌の編集・記者を経て、2016年1月から「ダイヤモンド・ドラッグストア」誌副編集長、2020年10から同誌編集長。

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