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黒字化達成のワールドを分析!リストラとM&Aの二兎を追う意味とは

今回経営戦略を分析するのは、「東のオンワード、西のワールド」と並び称されたアパレルの雄、ワールド(兵庫県)である。2022年3月期決算で復活を遂げた同社だが、その経営戦略の中心は、沈みゆく日本市場である。ワールドが今後進む道を含め、解説していきたい(本稿で使用した図表は1〜5はワールド22年3月期決算説明会資料より<一部筆者が加筆>、図表6は筆者作成)。

アパレル業界に大きな影響を与えた、ワールドを分析する

ワールドといえば、次々と斬新な戦略で、アパレル業界に大きな影響を与えた企業で、その功績は計り知れない。販売員を正規社員にし、自らワールドプロダクションパートナーズ (WP2)を作り商社機能を内製化。感性が中心であったアパレル業界に論理と数字によるKPIを次々に作り上げ、当時、GMSでは常識だった52MD、週指数、在庫週数、タコヤキなど独自のツールも開発した。その後、非公開化で大胆な改革を成し遂げ、さらに再上場するなど、まさに日本のアパレル産業を代表する企業である。

同社出身の人材は産業界に数多くおり、日本のアパレル企業のブレインとして活躍している姿を幾度もみた。OBOGに共通するのは、強固なロジックと数値に裏打ちされた優れた人材であるということだ。

一方で、ワールドの成功体験は旧態化している部分もあり、私レベルの人間が言うのも憚るが、彼らと話をしていると、世界の動きを本当に理解しているのかと思わざるを得ないときがあり、同社の経営計画にもその点が如実に表れているように思う。

そこで今回はワールドの決算を分析したいと思う。本分析は、公開資料から得られる、私個人の分析であることをはじめにお断りしておく。

 

黒字達成は本業のリストラの結果に見える決算書

ワールドが最近メディアを騒がせるニュースは既存ブランドのリストラか、ナルミヤインターナショナル、神戸レザークロスの買収など。中堅、中小アパレルを傘下にいれたプラットフォーマーの道を進んでいるように見えるが、これらが有機的に結合し、プラットフォーマーとして業界に影響を与えているという話をあまり聞かないのは私だけではないだろう。時効だから申し上げるが、例えば、神戸レザークロスなどは私がコンサルをやり、sell one, buy one (パーソナルオーダー)の仕組みと科学的経営構築支援をした矢先に同社に買収された。その他、私が手がけたアパレル企業を同社にさらわれていったのは1-2度ではない。

私は、苦労して育てた企業を飛び道具でさらわれたことに恨みをもっているのではなく、むしろ、地味なコンサルティングという私のハンズオンスタイルに対して、M&Aという新しい武器を学び、自分自身がプライベートエクイティの道に進んだきっかけとなったという意味で同社に敬意を表しているぐらいだ。

さて、話をワールドに戻すと、実は同社の収益を生み出す大部分が国内アパレル事業である。21年3月期赤字だった同社は、22年3月期黒字化を成し遂げた。しかし、数字をみれば、この黒字は大きな販管費削減の結果であり、大雑把にいうと、原価を変動費、販管費を固定費と考えれば、縮小均衡への道、つまりリストラによる黒字であり、決して新規事業の貢献でないというのが気になる点だ。

これは、以前分析した三陽商会の歩んできた道と同じで、三陽商会の場合は読みが甘かったため、コスト削減の手綱が弱まり幾度かのリストラを繰り返し黒字幅を少なくしているように見えるのに対し、ワールドは「大なた」を振り下ろし黒字化を達成したということになる。いずれにせよ、お手本であるファーストリテイリングのように、得意の日本と中国で負け越しても、他の国でカバーするという「ポートフォリオ」戦略とは言いがたいということだ(くどいようだが、これは、私の個人的かつラフな分析である。在庫効率などは上場企業であれば当たり前という前提で、あえてB/Sの在庫効率まで見ていないということにご留意いただきたい)。

※ワールドのコア営業利益=売上収益から売上原価、販売費及び一般管理費を引いたもの、セグメント利益と同じ数値

図表1 ワールド事業セグメント別収益 出典:『2022年3月期(第64期)4Q累計 決算説明会』

それを数字で示しているのが、セグメント別資料だ(図表1)。同社は、事業を「ブランド事業」「デジタル事業」「プラットフォーム事業」「共通部分」の4つにわけているが、本来、前回説明したアダストリアやファーストリテイリングのポートフォリオのように、沈みゆく日本のアパレル市場の生産性を上げ「ミルク」である利益を海外などの成長事業へ回し、会社のポートフォリオバランスを変えるトランジットをするのがターンアラウンドの王道だ。

しかし、ワールドの本業でありミルキング事業とおぼしき「ブランド事業」以外の新規事業は大きな収益貢献をしておらず、特に「デジタル事業」については、223月期も少なからず赤字となっている。

また、213月期の営業赤字原因は本業のアパレル事業であり、223月期の営業黒字化もアパレル事業の黒字化によるものであることがわかる。それでは、本業の「ブランド事業」の黒字化はいかに果たされたのだろうか。下の図表2が、同社の収益貢献度を表しているチャートだ。流石にコンサル出身の鈴木社長だけあってか、素晴らしい分かりやすさである。

図表2 コア営業利益の事業別貢献

ここで、気になるのが「ミドルロワー」と呼ばれるセグメントの大きな収益貢献度と、生産プラットフォームの大きな赤字だ。

「ワールドと言えば生産」というイメージをもっているメディアやアパレルは、こういう数字を見ているだろうか。彼らの生産プラットフォームは対前期比で約23億円の減益となっているのである。さらに、成長著しい海外においては大きな事業のネタは現時点ではなく、どのように見ても将来性のない国内だけで勝負をしているのが実態だ。普通に考えれば、同社が「時代の流れ」に正しくのっているのか、私は疑問である。しかし、別の見方をすると、既存事業を縮小し、ナルミヤや神戸レザークロス、ストラスブルゴのような「出物」を買取り、国内事業の「入れ替え戦」をやっているようにも見える。

 

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好調なミドルロワーと赤字のプラットフォーム、そしてナルミヤ

それでは、同社のセグメントを見てみよう(図表3)。赤い線で囲ったのが収益貢献をしている「ミドルロワー」と呼ばれる伝統的アパレル・セグメント、そして、対前期比で減益幅が最も大きいのが「プラットフォーム事業」の「生産」だ。

図表3 ワールドの事業概要図

まず、この「ミドルロワー」だが、子供服のナルミヤインターナショナルを買収したことが記憶に新しい。ナルミヤインターナショナルは、過去、人気グループ「SPEED」のブームで火がつき、日本の子供服市場を席巻した。しかし、一見、分散化されているブランドも遠くで目を細めてみれば全く同じセグメントに集中していて、ブームがジェットコースターのように去った後、業績低迷。2010年上場廃止となるも、SBIキャピタルの支援を得ながら2018年に再上場をした。

図表4 22年3月期のナルミヤ合算効果

ワールドの業績を正しく知るには、ナルミヤの買収を見なければならない。まずナルミヤの222月期決算は売上高約310億円、営業利益は14億円だった。今回ワールドは2月末にナルミヤを連結子会社化したので、ワールドの223月期決算に寄与したナルミヤの売上、利益は3月の1か月分のみ(および段階取得損失などの連結調整)。図表4のように、ナルミヤ分は22年3月期、売上収益が約30億円、営業利益は約11億円の損失が合算された。

図表5 ワールドの21年3月期と22年3月期の損益計算書比較

上の図表5は、ワールドの213月期と223月期の損益計算書比較である。注目すべきは売上総利益と販管費だ。ワールドは、プロパー販売の強化(値引き抑制)により粗利率を確保したとのべているが、この表を見る限り、売上は1684 (ナルミヤ分の30億の売上を単純減算した)と、前期から約7%も落ち込んでいるのに対し、ほぼ固定費である販管費が57.4%から54.4%と、大きく改善していることだ。

販管費の絶対額の比較をしてみると、213月期の約1036億円から、223月期932億円へと減る。さらにナルミヤ分として22億円をマイナスすればワールドの実質販管費は約910億円と試算できる。つまり、1036億円から910億円へ、126億円ものコスト削減を行ったことになる。つまりワールドのコア営業利益54億円の黒字というのは、大幅なリストラの結果に見え、同時に行うM&Aと併せて考えれば「入れ替え戦」をしているように見えるわけだ。

 なぜなら、彼らが粗利改善で収益貢献度が多いプロパー販売増加ももちろん粗利改善に寄与したとは思うが、ならば、売上がこれほど大きく下がるのは不思議だ。一般的に値引き抑制は、売上向上、原価率の低下に寄与する。しかし、ナルミヤを除く同社の売上は実質7%の減収であり、それを補填するはずの新規事業も伸びてはいない(冒頭の図表1をみればわかるとおり、すべての事業が減収である)。

同社が得意だと業界で思われている「生産」領域は、むしろ現時点では同社の利益においては、足を引っ張っていることも見てとれる(同事業のコア営業利益は対前期比で6億円近く改善も営業利益は約4億円の減益で、いずれも赤字)。なにより、同社の全ての事業は日本国内に偏っており、海外事業はほとんどない。EC比率も同社の課題に挙げており、世界の潮流であるD2Cや越境など、ダイナミックな動きも見えてこない。

今まで、なぜか接点の少なかった同社だが、私の周りには同社OBも多く、彼らはこのようにいう。「ワールドは、科学的経営が行き過ぎて、いわゆる人の感性を殺しだした。数字だけがアパレルではない」と。

しかし、これは、多くの人が誤解しているところだと思う。下の図表6を見て欲しい。ブランドのアイデンティティとデータによる時代のトレンドという2軸でやるべき領域とやってはいけない領域を図で示したものだ。

ブランドによる差別化をするためには、①を見せ筋として出し、ブランドの輪郭を見せ筋と売れ筋のミックスで構成している。ところが、多くのアパレル企業が低収益にあえいでいるため、④になっているからではないかと思う。データか感性かという議論は、論点がずれているというのが私の視点だ。

図表6 アパレルがやるべき領域とやってはならない領域

最後に、私は商社時代、ワールド担当だったので、彼らの極めて科学的、合理的なブランド事業の進め方に感銘を受けた。サプライチェーンマネジメントという概念を学び、コンサルタントに転身するきっかけともなった。ぜひとも、ワールドが完全復活を遂げられるよう、エールを送りたいと思う。

 

 

プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。2020年に独立。 現在は、プライベート・エクイティファンド The Longreach groupのマネジメント・アドバイザ、IFIビジネススクールの講師を務める。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
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