急拡大するネットスーパー選択肢は多彩 自社にあった戦略の見つけ方とは
自社にとってネットスーパーが本当に必要かを考える
このように各社がネットスーパー事業に注力するなか、あらためて考えたいのは、「なんのためにネットスーパーに参入するのか」だ。すなわち、自社の戦略を描き、「提供価値」を整理したうえで、その価値はネットスーパーを行わなければ顧客に正しく届かないのかどうかを明らかにするべきということである。単に「他社がやっているから」「やらなければそのぶんの売上を失うから」程度の理由で手掛けられるほど、ネットスーパーは簡単なものではない。その難易度の高さは一部企業を除きほとんどの企業で、ネットスーパー事業は赤字だということからも明らかだ。
そもそもネットスーパー市場が急拡大しているといっても、既述のとおり食のEC化率は約3%と低く、生鮮など日持ちのしないものに限ればさらに低い。本特集でネットスーパーの利用実態をつかむべく実施した消費者調査でも、ふだん使いの生活必需品の購入にネットスーパーを利用している人は、生協宅配を含めても全体の3割未満といまだ少数派であることもわかった。
無論、これから認知度が高まるにつれて利用が定着していくことも十分考えられる。
しかし、日本は国土面積が狭いうえに、欧米や中国と比べてもすでにある程度細かな店舗網が構築されている。とりわけネットスーパーの需要が高いとされる都心部では、SMだけでなく小型SM、CVSなどさまざまな業態が至るところで店を構えている。配送で差別化を図るにしても、とくに都市部で勢力を広げるQコマースには、商品を手元に届けるまでのスピードの面では劣ってしまう。さらにオイシックス・ラ・大地(東京都)や、生協宅配のように、こだわりの産直野菜など商品やサービスに独自性があり、利用者の高い支持を得ている定期食品宅配サービスも存在する。こうしたなかで、「あなたの会社」のネットスーパー事業はどれだけ利用者を増やしていけるだろうか。これは、すでに戦略の根幹にネットスーパーを位置づけ、先行している有力他社ではなく、自社はどうなのかということだ。
ほとんどの参入企業がいまだ赤字と書いたように、ネットスーパーは収益化が難しい。セルフサービスの店舗事業と比べて、商品のピッキング、梱包、配送、さらにはマーケティングコストと、事業者側にさまざまな負担がかかる。たとえマーケットが拡大し利用者が増えたとしても、自社では、十分な収益性を確保できる将来の柱となる事業にまで発展させることは可能なのだろうか。
大手小売や物流企業で経営やマーケティング、サプライチェーン改革の重責を担ってきたNice Ezeの松浦学氏は「今後人口減で国内市場が縮小し業態を越えた戦いが激化する。5年、10年後に自社はどのような価値を提供して生き残っていくのか。そうしたなかでネットスーパー事業は本当に必要なのか。今こそ各社は見つめ直すとき」と指摘する。
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