食品スーパーが規模拡大と地域密着を両立する方法
近くても全然違う!食文化の違いにどう対応するか?
さて、日本では、上記の北海道に限らず、地方ごと(あるいは平野ごと)に食材・食文化が多様であり、隣接する都道府県と言えど、日常的な食材が全く異なることがある。例えば、新潟・北陸・北関東で消費される代表的な鮮魚を比べると、新潟はしゃけ、北陸はぶり、北関東はまぐろとなっており、地域性の違いが明確である(図表1)。
いわば、新潟はしゃけ文化圏、北陸はぶり文化圏、北関東はまぐろ文化圏と分類されるかもしれない(図表2)。こうした違いへのきめ細かな対応は、小売企業にとって、とりわけ食品スーパー企業にとって極めて重要である。地元の人々が普段食べている食材を扱っていない、あるいは十分に品揃えされていない食品スーパー店舗は、家庭の主婦に“使えない店”と見なされる可能性があるためだ。
他業態との競争激化も含めた食品スーパーの収益環境が一段と厳しくなる状況下、規模拡大によるスケールメリット享受と競争力強化は避けられない。一方で、広域化の副作用としての営業力低下(地域対応の弱体化)リスクも無視できない。しかしながら、方向性は明確ではなかろうか。すなわち、店舗展開エリアの広域化(=規模拡大)と地域対応を両立するために、地域ごと・季節ごとの食材・食生活を熟知した地元チェーンの買収や大同団結が非常に有力な選択肢となる。
ここで、新潟県・群馬県を地盤とするアクシアル リテイリングの事例を見てみよう。新潟地盤の原信ナルスが店舗展開エリアを拡張する場合、北陸方面と北関東への南下政策(あるいは東北への北上政策)などが検討される。しゃけ文化圏の原信ナルスが南下政策(→まぐろ文化圏への参入)に際して、現実に選択したのは、群馬県地盤のフレッセイホールディングスとの経営統合(2013年10月)であった。その後の業績推移を見る限り、規模拡大と地域密着を両立するために、両社ともに合理的かつ賢明な選択をしたと評価されるのではなかろうか。
今や、食品スーパー企業は「各社の商品部(特に生鮮担当チーム)が蓄積してきた“経験知”を大切な経営資源であると評価し、それらを取り込み、集約・活用し、連合結成によって規模の競争力を発揮すべき」という時代に直面しているのかもしれない。
東京駅八重洲地下街の物産ショップで購入した味付きジンギスカンを食しながら、そんなことを思う今日この頃である。