#6 道内小売業の新陳代謝を進めたのは、しがらみにとらわれない消費者の合理的な行動だった
たった7年で「無名の新参者」が地域一番店になる、北海道の特異性
この事例が示すように、小売業の経営は、経済合理性と合致しない「しがらみ」に左右されることが少なくありません。地域に愛される老舗の歴史と看板は大切にすべきですが、それに安住して、いつのまにか時代に取り残されてしまう企業もまた多い。それでも日銭を稼げる小売業は、突然「ジ・エンド」とはなりにくいから、新陳代謝が進まない-。地方小売業の典型的な姿ではないでしょうか。
このような観点から、「北海道現象」がなぜ北海道で起きたのかを捉え直すと、重要な事実に気付かされます。北海道現象とは「不況によって消費者の生活防衛意識が高まり、価格やサービスを厳しく選別する結果、各業態のトップ企業が独り勝ち状態になる」ことですが、これが成り立つための絶対条件がある。消費者がしがらみにとらわれることなく、経済合理性に徹して行動することです。
Bチェーンをずっと好きで利用してきたけれど、あるきっかけでAチェーンの方がいい店だと気付いたら、あっさり乗り換えてしまう。北海道の消費者が「冷徹な選択眼」に基づいた行動を取り続けたからこその独り勝ち現象であり、北海道で起きたことが、他の地域で起きない理由の一つでしょう。
北海道の住民は、先住民族であるアイヌの人たちを除けば、基本的に「よそ者」の集団です。明治政府が開拓使を設けてから150年ほどしかたっておらず、他の地域と比べ、人間関係や歴史のしがらみが希薄な土地柄と言えるでしょう。よそ者同士、最果ての地で生き抜いていくには、妙なしがらみに囚われてはいられない-。そんなクールな物の見方が、消費者マインドの根底にあるのです。
北海道における消費者の「冷徹さ」を最もよく示したのが、百貨店業界の盟主交代劇です。札幌では、1872年(明治5年)創業の丸井今井札幌本店が地域一番店に君臨し、これを1932年(昭和7年)開店の札幌三越が追う構図が戦前から続いてきました。丸井今井は、山形における大沼と似た立ち位置の百貨店であり、地元では「丸井さん」と呼ばれて愛されてきた店です。
ところがこの構図は、大丸が札幌店を開店した03年に一変します。大丸、丸井今井、三越の年間売上高の推移を示した<グラフ>を見れば、何が起きたのかは一目瞭然でしょう。
大丸と言えば、関西では老舗中の老舗として知られていますが、開業前の北海道ではほとんど知名度のなかった企業です。それが、05年に三越の売上高を上回り、09年には丸井今井も抜き去りました。戦前から道民に支持されてきた2つの百貨店は、たった7年で「無名の新参者」に地域一番店の座を奪われたのです。
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丸井今井と三越を足しても 今や大丸1店舗にかなわない
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