第3回 欠品を出さないDX
在庫管理と需要予想に
AIならではの出番
米小売業界には欠品に関する経験則がある。たとえば、商品棚が空になる確率が高いのは金曜日と土曜日であり、セールで安売りされる商品が品切れになる確率は正札より75%高い、などだ。しかし、これらの「法則」はリアルタイムのビッグデータに基づいたものではないため不完全で、より正確で信頼性が高い在庫管理と需要予想が求められている。
こうした中で注目されているのが、ホームセンター大手のロウズ(Lowe’s)がサンフランシスコ地区11店舗で導入した「ロウボット(LoweBot)」と呼ばれるロボットの導入だ。ロウボットは広大な店舗内で客の探し物が置かれた商品棚への案内役を務めるだけでなく、店内を走り回って商品棚のスキャンも行い、データをリアルタイムで収集して本部データセンターにワイヤレスで送信するというスグレモノだ。また、間違った場所に置かれた品物や、帳簿上の販売価格と表示価格の不一致まで発見するという。
一方、ロウボットは優秀だが、大面積で通路幅も広い店舗でしか使えないという欠点がある。このため、マサチューセッツ工科大学(MIT)やウォルマート(Walmart)などは、人手による在庫確認に代わる「ドローン在庫スキャニング」を研究している。プライバシーや安全問題などでまだ店頭における実用化はされていないが、倉庫や配送センターから普及していきそうだ。
AIを使った在庫管理を実施するには、商品の最小管理単位であるSKUが正しく表示されていることと、スキャンが正確であることが必須条件となる。「洗濯洗剤の残数が少なくなってきている」「紙おむつに欠品が生じた」という状況を把握し、補充や注文などの適切なアクションを取るためだ。こうした場面こそ、優れた画像認識や販売のパターンなどを総合して瞬時の判断ができるAIの出番と言えるかもしれない。
落胆させない
欠品AIの能力
欠品AI の実力は、「客を落胆させない能力」で決まる。品切れは消費者にとってもチェーンストアにとっても損失であるから、そもそも売り切れを生じさせない在庫管理と需要予想が中心となるのは当然だ。その管理の補助的役割としての代替品提案にもAIは活躍している。
ウォルマートにおいて、オンライン注文を受けた食品・日用品が欠品していた場合に、顧客の好みに合わせてAIを使って代替商品を推奨するシステムを稼働させたことは広く報じられた。たとえば、チェリー味のヨーグルトが品切れであった際、ストロベリー、ラズベリー、ブルーベリーなど他のフレーバーを提案して、商機を逃さない工夫だ。
この場面においてAIは大きな力を発揮できる可能性がある。なぜなら、ウォルマートでは毎週2億人が店舗とオンラインで15万種を超える食品や日用品を購入しており、ビッグデータの量と質には圧倒的なものがあるからだ。客の好みは多種多様であり、間違ったおススメ商品は逆効果になる恐れもあるため、ブランド、嗜好、価格、サイズ、種類など何百もの変数をAIが深層学習することで問題解決につなげようとしているのだ。
とは言え多くの場合、代替品とは妥協の産物である。そのため、業界関係者からは、「AIは代替品提案ではなく、欠品を生じさせない在庫管理と需要予想にこそ使われるべきだ」との声も聞かれる。
こうした中、欠品AIのキーワードは、①ビッグデータ活用、②リアルタイム分析、③サプライチェーン強化としてまとめることができそうだ。
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