焦点:試されるトヨタの先見性、仲間と「リアルの力」で挑むCASE

ロイター
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5月9日、2019年3月期に売上高が初めて30兆円を突破したトヨタ自動車>。だが、手放しで喜べない。写真はトヨタのロゴ。フランスのオネンで昨年1月撮影(2019年 ロイター/Pascal Rossignol)

[東京 9日 ロイター] – 2019年3月期に売上高が初めて30兆円を突破したトヨタ自動車。だが、手放しで喜べない。目前に迫るCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)の時代には、売上高をここまで伸ばしてきた今のトヨタのビジネスモデルが通用しなくなる恐れがある。他業種からもライバルが参入し、自動車業界の「王座」を巡る争いが激化すると予想され、豊田章男社長の先見性が試される局面を迎えている。

<「リアルの力」は磨き続ける>

8日の決算会見で、豊田社長は笑顔も少し見せたが、厳しい表情が終始目立った。「CASEの登場とともに、何十年もかけて(自動車産業で)やってきたわれわれが、一足飛びに追いつかれる可能性がある」──。売上高30兆円超えで顧客らに感謝の意は述べたものの、発言の多くには危機感がにじんだ。

豊田社長は今年で社長就任から10年を迎えるが、直近の4年間は特にトヨタを「モビリティカンパニー」へと転換すべく取り組んできた。創業以来80年以上「車を造って販売する」というビジネスモデルで成長し続けてきたが、それだけではCASEの戦いで生き残れないとみているためだ。

同時に、真骨頂である「トヨタ生産方式(TPS)」と「原価の作り込み」の再強化にも力を注いできた。

「変化することが求められる時代だからこそ、ブレない軸、変えてはいけないことを明確にしておくことが必要。ブレない軸こそがTPSと原価を作り込む力だ」と豊田社長は述べ、「3つの『リアルの力』を磨き続けること」こそが、CASE時代でもトヨタの競争力を高めることにもなると強調した。

「リアルの力」とは、1)TPSという共通言語を持つグループ企業だからこそ実現できる「モノづくりの力」、2)約1万6000カ所に上る世界の販売拠点、グループ会社や仕入先などの巨大サプライチェーンという「ネットワークの力」、3)世界で保有されるトヨタ車1億台以上が示しているトヨタに対する信頼という「保有の力」の3つだ。

100万台規模で量産し、10年、20年経っても安全で安心して乗り続けられる車をトヨタが世に送り出せるのは「ものづくりの力」があるからで、CASEでもその力は不可欠とみている。また、車だけでなく、住宅事業なども自前で持っていることも大きな優位性になるとにらむ。

<普及の鍵になる「仲間づくり」>

一方、豊田社長はCASEの時代に「変えなければいけないこと」もあると強調。新たなビジネスモデルの方向性にも言及した。  「ハイブリッド車(HV)までは、これまでのビジネスモデルは有効だったと思うが、新たなインフラを必要とする燃料電池車(FCV)や電気自動車(EV)では通用しないかもしれない」と話し、EVやFCVの導入にはまず「普及」が必要で、普及を進めるためには「仲間づくり」が鍵になると指摘した。

トヨタはEV基幹技術の開発会社でマツダなどとすでに組んでいるほか、車載用電池でパナソニックと、MaaS(次世代移動サービス)ではソフトバンクとそれぞれ提携している。HV関連技術の特許無償提供も仲間づくりの一環だ。

新たなビジネスモデルを考える上で、車を含めた町・社会全体という大きな視野で考える「コネクテッドシティ」という発想も必要だという。トヨタとパナソニックは9日、街づくり事業に関する合弁会社を設立することで合意したと発表した。

トヨタの寺師茂樹副社長は、例えば、大気汚染問題の解決にどのモビリティをどう役立てるかという戦略について、国・地域と一緒になってトヨタも考えることだと説明する。

車だけを売るのではなく、インフラが未整備でEVがすぐに導入できなければ、当面はHVで代替できるプランを提案するなど、中長期的な環境対応車のポートフォリオ戦略もセットにして提案する。

豊田社長は「トヨタの意見を聞いてみたい。トヨタに(プロジェクトの)メンバーに入ってほしい」というように、相手から「逆に選ばれるトヨタになっていきたい」と語った。こうした仲間との連携によって「トヨタが目指す『モビリティカンパニー』としてのビジネスモデル、『モビリティサービス・プラットフォーマー』への道が開けてくる」と考えるからだ。

ただ、トヨタが直面している課題は、ビジネスモデルだけではない。自動車業界関係者は「新興企業であっても、大手企業と対等に張り合えるチャンスがあるのが電動化時代。トヨタが得意なすり合わせ技術など『ものづくりの力』も生かしにくくなるとされる。『リアルの力』がどこまで有効なのか未知数だ」と話す。

CASEの技術開発には巨額の投資もかかる。ある大手企業幹部も「CASEのコスト負担に耐えられる企業が生き残る。トヨタにとっても試練だろう」と述べる。「大変革の時代は、何が正解かわからない」(豊田社長)だけに、トヨタの真価が問われることになる。

(白木真紀 編集:田巻一彦)

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