今酒場では何が起きている?外食市場をリサーチ! 連載:深掘りすれば見えてくる「チューハイ編」
居酒屋での焼酎ブームをきっかけに「タカラcanチューハイ」が生まれたように、酒場でのブームから需要が拡大し、商品化につながるケースがある。ハイボールやレモンサワーがその好事例だ。そこで外食シーンにおける新たなブームを探ろうと、外食事情に詳しいリクルートライフスタイル ホットペッパーグルメ外食総研の有木真理氏に話を伺った。
レモンサワーブームの背景にある3つの要因
「ハイボールブームが起きたのは、サントリーによる『角瓶』のプロモーションが効いたことは言うまでもありませんが、シュワシュワと発泡性があって飲みやすく、低カロリーで低糖質ということも支持された要因ですね」
有木氏によれば、ウイスキーハイボール(以下、ハイボール)の登場によってウイスキーのような蒸留酒も食中酒として飲まれるようになったという。それまでは食事と一緒に飲むお酒といえば、ビールやワイン、日本酒といった醸造酒がほとんどだった。だが、ソーダで割って軽くレモンを絞った飲み方であれば、蒸留酒でも食事にぴったり合う。そんな魅力が広く知れ渡るようになり、ハイボールブームが起こった。
今ではカテゴリーの1つとして定着し、ハイボール缶も数多く登場している。同様のことがレモンサワーにも当てはまる。国民的人気アーティストEXILEがテレビ番組などで「レモンサワーは公式ドリンク」と明言したことでレモンサワーブームに火が付いた。
「ブームの背景には大きく3つの要因があった」と有木氏は分析する。まず1つは、世の中が「低糖質」をキーとした健康ブームにあり、それとマッチしたことだ。レモンサワーに多く使われる甲類焼酎は低糖質であり、レモンにもヘルシーなイメージがあることから、「レモンサワーは健康的」ととらえられ支持を広げた。2つめは、横丁をはじめとする「昭和っぽい」レトロな雰囲気の酒場人気だ。そこで愛飲されているレモンサワーは値段も手頃で飲みやすく、その魅力が再評価されて人気を集めるようになった。そして3つめは、進化形レモンサワーの登場である。凍らせたレモンを使ったり、レモンをシロップ漬けにしたり、中にはSNS映えするフォトジェニックなものも現れ、レモンサワーはバリエーション豊かなお酒になった。
それに伴い、居酒屋だけでなくカフェやホテルのバーなどでも提供されるようになり、業態も飲用シーンも飲用層も拡大。SNSによる拡散もあって、レモンサワーは一気に酒場の主役になったのである。
着目するのはお茶系「お茶ハイ」が最有力候補
「ブームをつくるポイントは一点特化。外食であれば専門店化ですね。いろいろな情報があふれている今、消費者は逆に選べなくなっています。だからこそ、特徴をはっきりと出した専門店に支持が集まっています。たとえば、魚料理は一切出さず、肉料理しか提供しないイタリアンとか、鯖料理専門の居酒屋とか」
確かにレモンサワーも、サワーというカテゴリーの中で「レモン」に特化したお酒だ。有木氏いわく、レモンは季節を選ばず、年間を通して比較的安定供給できることもブームを後押ししたという。
「レモンサワーについては昨年末あたりから定着化のフェーズに入ったとみています。では次にくるのは何か? 着目しているのは『お茶系』ですね」
中でも「抹茶」と有木氏は話す。実は抹茶は国内外で空前のブーム。とくに米国ではスーパーフード的に扱われており、ヨーロッパでもスイーツの新しいフレーバーとして利用されるなど、ヘルシーさを強みに人気が高まっている。日本においても抹茶ドリンクや抹茶ソフトクリームのお店が登場し、人が並び始めているとか。そんな抹茶を使ったお酒、「抹茶ハイ」を含む「お茶ハイ」が、バラエティとヘルシーさからポスト・レモンサワーの最有力候補ではないかと有木氏は見ている。
「お茶ハイを今後ちゃんとプロモーションしていけば、ハイボールやレモンサワーのときのように火が付くのではないでしょうか。『低カロリー・低糖質・食事に合う』という点はハイボールやレモンサワーに共通するところ。加えて、豆乳やミルク、タピオカを入れてアレンジできるという点も見逃せません。もしかしたら、海外で先にブレイクする可能性もありますね」
折しも今年は東京2020が開催され、海外から多くの観光客が日本を訪れる。これがどう作用するか、気になるところだ。
【Special Column】若い女性たちの間でじわじわ人気“お茶割り”の専門店「茶割」とは?
レモンサワーに続く酒場発の人気酒類として、今大注目の“お茶割り”。そのパイオニアとして、各種メディアから取り上げられているのが、その名もズバリ「茶割」だ。2016年9月にオープンして以来、都内に3店舗を展開している。オーナーである多治見智高氏に開店の経緯や顧客からの反響、今後の展望などを伺った。
定期的に起こる抹茶ブームにヒント
2016年9月、東京都目黒区の東急東横線学芸大学駅近くに「茶割」を開店した多治見氏は、飲食業界での経験がないまま起業したユニークな経歴の持ち主だ。以前は広告デザイン業界にいたが、ひょんなことから代官山にあった行きつけのお店を引き継ぐことになり、知人のシェフとともにイタリアンのお店をオープン。それが成功して2店目を出すにあたり、「2軒目に行く店」をコンセプトに構想。たどり着いたのがお茶割りに特化した酒場だった。
「当時はレモンサワーの走りの時期で、こだわりのレモンサワーを楽しめるお店が次々とオープン。同じことをやっても後出しになるので、次に来るものを考えました」と多治見氏。そこで着目したのが「お茶割り」だ。そもそもハイボールもレモンサワーも昔から大衆酒場にあったが、見せ方や出し方を変えることで再評価されてブームになったお酒だ。お茶割りでも同じことができるのではないか。加えて、お茶の中でも抹茶は数年に一度ブームが起きており、マーケット的に見てもその可能性を秘めている。
「なにより私自身、子供の頃からお茶が好きだったというのがあります。ただ、酒場で飲むお茶割りは、正直言ってお茶そのものがおいしいとは言えなかった。急須で丁寧に淹れたお茶を活かす、味わい深く香り高いお茶割りをつくれないか。そんな個人的な想いもあってお茶割りに特化したお店を開きました」
ひと口にお茶といっても、抹茶もあれば焙じ茶もあり、しいたけ茶のような茶葉ではないお茶もある。レモンサワーに比べて概念の幅が広い。そこで多治見氏は、「お茶割り」という1つのカテゴリーに特化しつつ、その中で多彩さを提案していく戦略をとった。それが10種類のお茶と10種類のお酒による100種類のお茶割りだ。焼酎だけにこだわらず、泡盛やジン、ラム、ウイスキーなど10種類のお酒を用意し、お茶との掛け合わせを楽しんでもらう。月替わりのお茶とお酒も登場し、メニューの鮮度感を上げている。
「レモンサワーのように、この店ならではの究極の1杯を追求するのではなく、お茶割りにはこんなにもいろんな味があるんだという多彩さの魅力を発信しています」
お茶割りも唐揚げも100種類の味を提供
「10種類×10種類=100の味」の方程式は、「茶割」の看板メニューである唐揚げにも採用されている。
「唐揚げが嫌いな日本人は少なく、どこのお店にもメニューにありながら、あまり大事に扱われていないようです。鶏料理の代表格であるにもかかわらず、焼き鳥ほど部位も楽しめない。そこで肉の種類と味付けの掛け合わせを楽しんでもらうメニューを考案しました」
ももやむねはもちろんのこと、砂肝、ぼんじり、せせりなどに加え、鴨やエミューといった鶏以外の鳥肉もラインアップ。味付けも柚子胡椒やパクチー、土佐酢など個性派が揃う。
学芸大学店がオープンした直後は、お茶割りへの反応は低調だったが、17年から18年にかけて、レモンサワーの次に来るものとしてメディアに取り上げられるようになると、状況は一転。若い女性を中心に多く詰めかけるようになり、19年3月に目黒に2号店を、同年12月には代官山のイタリアンをリニューアルして「茶割 代官山」をオープンした。代官山店は、日本品種の紅茶を中心にラインアップ。唐揚げもフライドチキンとして洋風路線をとっている。
3店を通じて来店客の7~8割は30代前後の女性が占める。お茶割りだからこそ罪悪感なく飲めるうえ、炭酸を使っていないので満腹になりにくく、食事の邪魔にならないといった点が評価されているようだ。
この流れに乗って、お茶割りは一大ブームとなるのか? 多治見氏によれば、ハイボールには小雪さんや井川遥さん、レモンサワーにはEXILEがいたように、お茶割りにもアンバサダー的な存在が現れると、もっと大きなムーブメントになるのではないか、とのこと。確かにそのとおり、お茶割りの魅力を伝えるヒーローまたはヒロインの登場が待たれる。