ID-POS分析実践における課題と対策

2015/12/07 10:36
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顧客データ分析のゴールは、顧客視点から、商品、チャネル、マーケティングなどの機能をバリューチェーン横断で最適化し、顧客への付加価値を最大化することである。今回は、分析を推進するためのロードマップを整理し、それを推進していくうえでの課題と成功企業のアプローチを紹介する。

文=原島淳(SAS Institute Japan ソリューションコンサルティング本部CIグループ マネージャ) 増田聖子(同シニアコンサルタント)

 

データ分析の価値向上に向けたロードマップ

 競争が激化し顧客主導型経営が求められるなか、小売業はこれまで以上に顧客をよく理解し、より高い付加価値を提供していく必要がある。顧客理解を起点として、商品、チャネル、マーケティングなどの機能をバリューチェーン横断で最適化することで、顧客への付加価値を最大化できる。

 ただ、この顧客理解を起点とした商品・チャネル・マーケティングの最適化は、さまざまな業務(における判断)のやり方を変える必要があるため、そう簡単ではない。しかし、だからこそ競合がたやすく模倣できない競争優位を確保できる。段階的に推進する取り組みとなるが、一般的には次の3つのステージが考えられる。

 

●導入:1部門で実施。まずは施策を限定して分析を行い、検証し、分析方法を確立させる。たとえば、マーケティング部門が顧客のセグメントを作成し、セグメント別の販促を行う。

●展開:段階的に複数部門に展開。たとえば、上記でつくった顧客セグメントを起点に、商品開発、基本商品構成、個店品揃えなどを最適化し、相乗効果を最大化する。

●高度化:分析の高度化による成果の改善。昨今のオムニチャネル化に伴い、チャネル横断のシームレスかつリアルタイムの1:1マーケティング手法、あるいは、ネット店舗のダイナミックに変動する市場価格を前提とした価格最適化、1:1プライシングなどの新たな手法が台頭している。

 国内の小売業では、導入、展開のステージにある企業が多いと筆者は認識している。以下、導入・展開のステージにフォーカスしていきたい。

 

導入・展開ステージの課題と成功企業の取り組み

 業務の最適化は、顧客データ分析を起点とする仮説・検証のサイクルを的確かつ高速に回すことで実現される。

 ポイントは、仮説・検証のインプットとなる「(1)分析内容の設計」、分析と仮説・検証を回すための「(2)人材・体制」と「(3)IT」の設計だ。これらの観点から、どんな課題があって、成功企業がどう取り組んでいるかを見ていこう。

 

 

(1)分析内容の設計

 分析の最初のステップは、まず、目的や判断に応じて、求められる分析内容を設計することである。次に、実際に分析を実施し、結果を検証し、分析内容が適切だったかを確認する。

 基本的なことに見えるが、実際の現場では「事例ありき」で分析を実施してしまい、結果が目的に対して十分でなかったり、最悪は「使えない」で終わったりすることも少なくない。

 また、全社展開を見据えて分析内容を設計することも重要である。しかし、国内の小売業では、部門縦割りで、分析が分断されている企業が少なくないようだ。たとえば、マーケティング部がライフスタイルでセグメントし、施策を打っているが、商品部は年齢軸で品揃えを考えている例もある。これでは、バリューチェーンの整合性がとれず、本来の「顧客への付加価値の最大化」という目的も達成が難しい。

 ここで、こうした問題に陥ることなく、顧客データ分析を複数部門に展開し、効果を上げている小売業A社の事例を見てみよう。

 A社は、顧客生涯価値(LTV)向上をめざし、はじめに(導入ステージで)、ダイレクトマーケティング業務で顧客セグメントを導入した。分析の前に、数週間の検討期間をとっている。

 セグメントの切り口については、マーケティング部の施策の方針を商品部と共有し、商品部の戦略も踏まえて、「グルメ」「ヘルシー」「簡便」など自社に適した切り口(商品DNA)を定義した。

 分析結果については、範囲を絞って施策をテストして、その有効性を確認。そのうえで、ダイレクトマーケティング全体に展開している。

 その後(展開ステージで)、品揃えなどの業務にも、この顧客セグメントを円滑に展開している。この背景には、はじめから他部門への展開を見据えた計画があった。顧客セグメント作成にあたっては、分析プロジェクトを立て、商品部などから関係者を集めることで、他部門の要望も反映した。加えて、実際の施策の効果が実証されたこともあり、他部門展開を円滑に進めることができている。

 

(2)人材・体制

 次に、データ分析から適切な顧客理解を得て、業務を最適化していくために求められる人材・体制を見てみよう。結論から言うと、最低でも3つの役割が必要になる。

 

●業務改革推進:経営課題を理解し、分析を軸に解決策を提案し、施策と効果につなげる。経営と現場の「つなぎ」の位置づけとして動き、分析の価値を最大化する。

●分析推進:分析手法を駆使して、目的や判断に応じた適切な情報を導出する。商品DNA、セグメント分析、レコメンド、需要予測などの高度な分析も行う。

●システム推進:分析推進担当者や業務部門で求められるデータベースやレポートなどを整備、運用し、効率よく分析や業務が行えるようにする。

 

 データ分析できる人材がいればよい、というほど単純ではない。とくに、分析の導入や展開のステージで成否を左右するのは「業務改革推進」の役割である。この役割が欠けていたり、業務理解が乏しい外部のコンサルタントに丸投げしていたりすると、うまくいかないことが多い。

 小売業B社では、分析の強化と全社展開をめざし、3人の分析組織を設立した(図表(1))。1年後に複数部門で成果を上げ、分析組織が提供する情報(分析結果)を利用して業務を行う「利用者」は100人を超えている。

 初期の分析組織のメンバーは、業務改革推進と分析推進の2つの役割を兼ねていた。この組織が最初に行ったことは、現場、経営層との信頼関係の構築である。メンバーが、商品部やマーケティング部の現場の相談役となり、施策の立案や実行をサポートすることで、現場との信頼関係を築いていった。経営層とは、施策の実績と効果を通して、信頼関係を築いていった。

 最近では、このように、部門横断の分析組織を立ち上げる企業が増えている。分析を縦割りにせず、全社展開を円滑に進めて、一貫性のある顧客理解を起点にバリューチェーン全体を最適化するためには、こうした体制、そして分析の一元管理が重要であろう。

 

 

(3)IT

 ITに関して今日の最大の課題は、各部門、各チャネルに分断されたシステムとデータの統合である。業務の一貫性と的確な判断を担保できるよう、各部門に一貫した有意な情報を提供し、チャネル横断で一貫性ある最適なアクションを実現するためには、図表(2)のシステム実現イメージのように、3つの一元管理が求められる。

 

●データの一元管理:顧客IDをキーにして、あらゆる顧客データを統合する。具体的には、顧客属性、ID-POS、Webログ、調査データなどが統合されたデータベース。

●分析の一元管理:各部門の判断に利用される分析結果や洞察情報。商品DNA、顧客DNA(ライフスタイル属性や販促反応予測など)、店舗DNA(客層や売上の特性など)などの情報。

●アクションの一元管理:データと分析の一元管理を起点に、オムニチャネル横断のあらゆる顧客接点における対応や販促を最適にコントロールする仕組み。

 これらを実現するには、一定のIT投資が必要である。導入にあたっては、まずは部門や施策などを絞り、データ、分析、チャネルの範囲を限定することで、小さく始めて、経験知を獲得しながら段階的に進めていくアプローチが推奨される。

 

全体最適をめざして

 オムニチャネルの時代に、顧客をつかんで売上を伸ばすためには、顧客が求める商品やサービスを、競争力ある価格で、顧客にあった売場で提供し、マーケティングでは顧客が必要とする情報を、適切な手段で配信していくことが求められる。

 部門縦割りの分析から脱却し、一貫性あるデータと分析を起点に、すべての業務、施策を行うこと、そのうえで分析を高度化することが付加価値の最大化につながる。こうした視点から、分析内容、体制、ITを設計していくことが重要だろう。

 

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http://www.sas.com/gms/redirect.jsp?detail=GMS19426_28378

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