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コロナショックで時価総額を増やした企業、減らした企業ランキング  評価高まるドラッグストアのアフターコロナは?

新型コロナウイルス感染拡大の対策としてステイ・アット・ホームが全国的に広がる中、小売企業の株式市場における評価は大きく二分した。この明暗を分けているのは、移動制限、不要不急の消費削減、トイレットペーパー・マスク・消毒液・食料品の入手可能性だ。時価総額を増やした企業、減らした企業のランキングからわかる、意外な“不調業態”の要因、そして好調業態の「アフターコロナ」まで解説していきたい。

kumikomini / iStock

コロナショックで株式市場における小売企業の評価は2

 はじめに、小売企業の関係者の皆様に、新型コロナウイルス感染の拡大の中、消費者のライフラインを支えていただき心から御礼申し上げます。

 さて、筆者が見守る株式市場においてもこの新型コロナウイルスの影響は甚大で株式時価総額は大きく変動した。年初から1四半期過ぎた良いタイミングでもあるので、2020年4月24日の終値を起点として過去3ヶ月の株式時価総額の実額の変動の大きい企業をリストアップし、株式市場が何を織り込もうとしているのかおさらいしてみたい。企業ごとにみると、わずか3ヶ月とはいえ、明暗がくっきり分かれている。

 まず1月24日から4月24日の3ヶ月間に株式時価総額を大きく増やした小売企業10社の顔ぶれだ。

直近3ヶ月に時価総額を増やした小売企業トップ10(単位:億円)

企業名 株式時価総額(2020年4月24日終値) 直近3ヶ月の株式時価総額増加額
ウエルシアHLDG 9,109 2,306
パン・パシフィック・インターナショナル 13,146 1,864
神戸物産 7,278 1,457
コスモス薬品 6,040 1,180
クスリのアオキHLDG 2,803 706
ツルハHLDG 7,365 675
ライフコーポレーション 1,924 620
スギHLDG 4,180 602
ヤオコー 2,657 400
セリア 2,677 284

 次に直近3ヶ月間に株式時価総額を大きく減らした小売企業10社の顔ぶれだ。

直近3ヶ月に時価総額を減らした小売企業ワースト10(単位:億円)

企業名 株式時価総額(2020年4月24日終値) 直近3ヶ月の株式時価総額増加額
イオン 18,664 -1,225
クリエイト・レストランツHLDG 976 -1,262
エービーシー・マート 4,350 -1,510
J.フロント リテイリング 2,278 -1,518
丸井グループ 3,690 -2,167
良品計画 3,221 -2,384
ワークマン 5,189 -2,578
ファミリーマート 8,976 -3,532
セブン&アイHLDG 31,611 -5,763
ファーストリテイリング 50,470 -15,263

ライフライン企業に強まる評価上昇の潮流
これに乗れないコンビニ

 いかがだろうか。業態別に評価が見事に2分している。追い風を受けたのはライフラインを支えるドラッグストアの主要企業(ただしインバウンド依存の大きい企業は敬遠されている)、ここにディスカウントストア、スーパー、100円ショップが並ぶ。一方、逆風だったのは、不要不急の衣料品、生活雑貨、百貨店など。ここにコンビニチェーンも加わった構図だ。一言でまとめれば、トイレットペーパー・マスクに始まる様々な生活必需品と食料品を提供する企業に投資家の関心がシフトしたということだ。

 ここで興味深いのはコンビニの評価だ。東日本大震災の際にライフラインとして注目されたコンビニが今回のコロナショックでは評価を上げるに至らなかった。コロナショックで緊急度の高まった生活必需品について、コンビニが他業態に比べて強い調達力があるわけではない(つまり集客エンジンになっていない)ことが最大の理由といえるが、加えて、リモートワークの定着に伴う都心の人手の減少、在宅時間が増えたことによる調理時間の増加、あるいは食事デリバリーの台頭を株式市場が懸念していると筆者は推察している。営業時間問題やテナントの人件費問題とは異質な新たなチャレンジに直面しており、株式市場はこれを乗り切るシナリオを描けていないのだろう。

いずれ来るアフターコロナ、ドラッグストアは安泰か?

 新型コロナウイルスへの対応で外出制限がかかる間、つまり“ウィズコロナ”の環境においては、株式市場の業態別評価に大きな変化はないかもしれない。しかしいずれ予防や治療のメドがたち外出制限が緩和される局面がくるはずだ。株式市場の本質は先読みであるとして、“アフターコロナ”の局面でドラッグストアの株式時価総額は安泰といえるのか。

 常識的には外出規制が緩和されるにしたがって経済活動が平常化し、人の流れも消費の中身のビフォーコロナに回帰すると考えたくなる。この結果、ドラッグストアの評価は下がっていく、そう考えるのが自然だ。

 しかし、筆者にはそれはと逆にさらに評価を高めるシナリオがありうると考えている。いくつか列挙してみたい。

1. ドラッグストアの集約がさらに進み、スケールメリットを消費者も株主も享受できる可能性。

2. 面分業の評価上昇。仮にオンライン診療が定着すると、診療所に近い門前薬局に処方箋を持ち込む必然性が低下する可能性。

3. リモートワークがアフターコロナでも定着。労働生産性の可視化が進み、消費者が雇用リスクや給与リスクをこれまで以上に意識するようになり、生活防衛色がさらに強まる可能性。他の業態にはない医薬品という利幅の大きい商材をテコに非医薬品の価格訴求が奏功を続ける可能性。

早晩、業際の垣根が問われることに

 とはいえ、これは小売業界のおける業態間のパワーバランスの変化につながり、特にコンビニやEC事業者などから医薬品の流通に関する規制緩和論争を再燃させることになるだろう。そこまで展望するならば、ドラッグストアは競争力と発言力をできる限り強めておく必要がある。ドラッグストアの集約は案外素早く進むことにつながるのではないだろうか。

 最後になりますが、みなさま、改めてStay Remote & Carry On!

 

プロフィール

椎名則夫(しいな・のりお)
都市銀行で証券運用・融資に従事したのち、米系資産運用会社の調査部で日本企業の投資調査を行う(担当業界は中小型株全般、ヘルスケア、保険、通信、インターネットなど)。
米系証券会社のリスク管理部門(株式・クレジット等)を経て、独立系投資調査会社に所属し小売セクターを中心にアナリスト業務に携わっていた。シカゴ大学MBA、CFA日本証券アナリスト協会検定会員。マサチューセッツ州立大学MBA講師