マニュアルのない災害支援 ユニクロが東日本大震災の被災者支援から学んだこと
2011年3月11日に発生した東日本大震災。未曽有の規模の震災により、発災直後には47万人の避難者が生活に困窮していた。地震発生直後、交通も規制され輸送網も壊滅状態、自治体も被災し機能していない中で、何をどう判断して動いたのか──。震災発生3日後から始まったユニクロの「災害緊急支援」、そして1年後の2012年3月から始まった「復興応援プロジェクト」について取材した。
ユニクロの服はライフライン
2011年3月11日は金曜日だった。14時46分に三陸沖で発生した巨大地震は、東日本各地で大きな揺れによる建物の崩壊や火災、大津波を引き起こし、それに伴う福島第一原子力発電所の事故が発生するなど、被害は連鎖的に拡大した。
ユニクロではその週の水曜日に、世界中の社員が日本に集結するコンベンションが開催されており、その日も出張者を含む多数の社員が東京・六本木のタワービルにあるオフィスに集まっていた。東京でも最大震度5を記録、揺れが収まった後も都内の公共交通機関が機能しなくなり、多くの社員は自宅あるいは宿泊しているホテルまで徒歩で帰り着いた。そして、その夜のニュースで、東北地方の甚大な被害状況を知った。
広報部部長でサステナビリティを担当するシェルバ英子氏(以下、シェルバ氏)は、その週末のことを、こう振り返る。
「土日の間に、カスタマーセンターにお客様からものすごい数のメールと電話が来ていました。『ユニクロから東北に服を送ってほしい』『ヒートテックを届けてほしい』という声が、文字通り殺到したんです。被災地の方からも、そうでない方からも、切羽詰まった声が寄せられ、ユニクロの服をライフラインの一つとして捉えていただいているように感じました。ユニクロでは、カスタマーセンターに届くお客様のお声は、毎日全社員に共有されていますから、当然、皆がそれを見ていました。それで、土日の間に関係部署と連絡を取り合って、月曜には会社として方針を発表しなければ、と準備していたのです」(シェルバ氏)
震災後わずか3日後の決定
そうして迎えた3月14日、月曜早朝の会議。柳井正社長が開口一番に「今すぐできることとして、僕はまず個人で10億円を寄付します」と発言すると、その切迫した口調から、一瞬にして、自分たちのとるべきスピード感と規模感を皆が悟った。
その場で、特に被害の大きい宮城、岩手、福島、青森、茨城の各県に対してファーストリテイリンググループから3億円、全世界のファーストリテイリンググループ従業員から1億円、柳井社長個人からの10億円と合わせ、総額14億円の義援金を寄付することが決定した。またヒートテック30万点をはじめ、肌着、アウター、ジーンズ、タオルなどの衣料約100万点を寄贈することも決定し、その日のうちにメディアを通して発表した。
海外での衣料支援で培ったネットワーク
衣料を寄付すると決まったものの、100万点の衣料をどのように現地に届け、配布するかが問題だった。現地は広範囲に被災しており、道路も寸断・封鎖され輸送網も壊滅していた。自治体自体が人も建物も被災し、機能していなかった。寄贈する衣料を届けるには、自分たちで現地に近い倉庫まで持って行くしかない。
運よく、以前から交流のあった独立行政法人JICA(国際協力機構)の福島にある体育館を借りることができた。とにかく早く、という一心で、第一便はサステナビリティ部の社員たった5人で、10トントラック5台分(段ボール約1000箱分)の衣料を運び込んだという。
「情報が錯綜している中、難民支援を通じて関係ができていた国際NGOのJENさんや、海外の被災地支援の際にお世話になったNPOの方たちが東北入りするという情報が入ってきました。それから、彼ら経由で、この避難所にはこんなものが必要だとか、ここの道路が通行再開するというような情報が少しずつ入ってくるようになりました」(シェルバ氏)
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