ムダ多く割高!日本のアパレル生産が「ガラパゴスの壁」を越える方法
我が国ではアパレルに「需給ギャップ」は付き物で「相応の値引きや残品は致し方ない」とする諦観が根強く、そのロスが価格に上乗せされるのが当たり前になっている。一方デジタル・トランスフォーメーション(DX)が先行する欧米やアジアでは生産・供給に要する時間を画期的に圧縮して需給ギャップを最小化するデジタルプラットフォームがサプライチェーンを一変させている。我が国アパレル業界はまたまたガラパゴスに取り残されるのだろうか。小島健輔氏が解説する。
需給ギャップは「時差」がなければ解消できる
需給ギャップが生じる最大要因は需要と供給の「時間差」で、需要と供給に時差がなければ、あるいは需要が供給に先行すれば需給ギャップは生じない。生鮮食品は日々、競りで需給調整が行われ価格変動が需給を擦り合わせるから需給ギャップは短期で解消されるが、需要に生産が何ヶ月も先行するアパレル商品は見込み生産の売り減らしになりがちで、需給ギャップを値引き販売などで無理やり擦り合わすことになる。
国内産地が衰退してしまった我が国のアパレル業界では、コストと品質を両立しようとすると海外生産のリードタイムが長くなり、「相応の需給ギャップは致し方ない」というギャンブル諦観論が大勢のように見受けられる。アルゴリズムやAIで需要予測の精度を追求し、作ってしまった在庫の配分や移動、販売消化を工夫して、値下げと残品のロスを抑制することに注力しているが、それでは需給ギャップを解消できないのが現実だ。
どんなに予測精度を上げても予想外の事態が起きれば計画と販売消化が乖離し、値下げと残品のロスも計画値を飛び抜けてしまうが、「予想外」が頻発するのが現実だから予測精度の追求には限界がある。ならば、需要の現実に供給を即応するか需要が確定してから供給する方がはるかに確実ではないか。
欧米やアジアの革新的なアパレル事業者はデジタルプラットフォームを駆使して、作る段階から需給ギャップを最小化するサプライチェーンマネジメントを志向している。『需要の予測は困難でも、需要に時差なく生産・供給を即応すれば需給ギャップは許容範囲に抑制できる』というマネジメントスタンスであり、『生産先行の売り減らしゆえ需給ギャップは致し方ない』と諦観する我が国アパレル業界とは根本的にスタンスが異なる。
「売ってから作る」なら需給ギャップは生じない
我が国でもECサイトの先行販売やクラウドファンディングで注文を取ってから作るという「予約販売」が部分的ながら行われているが、韓国や中国の越境ECでは『受注してから仕入れるのでお届けに時間がかかります』と正面切って断る商品も少なからず目に付く。元より消化仕入れの我が国百貨店のECサイトでも『お取り寄せになるので通常より○日多くかかります』と断る商品も散見されるから、珍しい商売ではないようだ。
これらはメーカーや問屋が在庫を抱えて供給しているから、小売業者は需給ギャップのリスクが無い分、メーカーや問屋が需給ギャップのリスクを負担している。その分、
小島健輔のアパレル一刀両断! の新着記事
-
2024/11/13
値上げしたのにアパレル業界が利益に結び付かない2つの理由 -
2024/10/16
「亜熱帯化」でも売上を伸ばすユニクロ、伸び悩むアパレルとの違いとは -
2024/09/18
ユニクロ、ZARA、しまむら、ワークマンを比較!在庫はどこに置くのが正解か? -
2024/09/02
SPAか仕入れか?チェーンストア衣料品が選ぶべきは「しまむら型」である理由 -
2024/08/14
ムダ多く割高!日本のアパレル生産が「ガラパゴスの壁」を越える方法 -
2024/07/24
拝借スペックのPBでは生き残れない!GMS衣料品は自前開発を決意せよ
この連載の一覧はこちら [14記事]
ファーストリテイリング(ユニクロ)の記事ランキング
- 2024-11-07同じ低価格なのに…GUがしまむらやワークマンと「競合」しない決定的な理由_過去反響シリーズ
- 2024-11-13値上げしたのにアパレル業界が利益に結び付かない2つの理由
- 2024-09-27ユニクロが中間価格帯になったことに気づかない茹でガエル産業アパレルの悲劇_過去反響シリーズ
- 2024-01-02勝ち組はSPAではなく「無在庫型」へ 2024年のアパレル、5つの受け入れ難い真実とは
- 2023-08-28ユニクロと東レとのサステナブルな関係から生まれたリサイクルダウン
- 2024-10-16「亜熱帯化」でも売上を伸ばすユニクロ、伸び悩むアパレルとの違いとは
- 2021-05-04大丸、三越伊勢丹…誰も語れない百貨店分析 政府の施策が百貨店を殺す「本質的理由」
- 2021-11-16「ラルフローレン」と「ユニクロ」が同じである理由とZ世代に対する誤解が生む悲劇
- 2022-01-11ZARAとユニクロだけがなぜ余剰在庫を撲滅できるのか?本人達も気づいていないメカニズムとは
- 2022-05-03ユニクロ独走の秘密は販管費にあるのに、原価削減を繰り返すアパレルの実態とは
関連記事ランキング
- 2024-10-29ライザップ傘下の夢展望、Temu効果で株価高騰も拭えない「不安」とは
- 2024-11-05ユニクロがZOZOに出店しない当然の理由と今後のECモールとの付き合い方
- 2024-11-12アパレルは「個人売買」「古着」が、今後驚くほど拡大する理由
- 2024-10-22事業再生、「自ら課題解決する」現場に変えるための“生々しい”ノウハウとは
- 2024-11-07同じ低価格なのに…GUがしまむらやワークマンと「競合」しない決定的な理由_過去反響シリーズ
- 2024-09-17ゴールドウイン、脱ザ・ノース・フェイス依存めざす理由と新戦略の評価
- 2021-11-23ついに最終章!ユニクロのプレミアムブランド「+J」とは結局何だったのか?
- 2024-11-13値上げしたのにアパレル業界が利益に結び付かない2つの理由
- 2024-09-27ユニクロが中間価格帯になったことに気づかない茹でガエル産業アパレルの悲劇_過去反響シリーズ
- 2022-01-264種のアプリを駆使し、ナイキが顧客との”ディープな関係”を極める理由
関連キーワードの記事を探す
ファストリが3兆円突破!24年8月期決算で語られた今後の成長戦略
「亜熱帯化」でも売上を伸ばすユニクロ、伸び悩むアパレルとの違いとは
海外事業好調のファストリが首位独走!アパレル売上高ランキング2024
ムダ多く割高!日本のアパレル生産が「ガラパゴスの壁」を越える方法
拝借スペックのPBでは生き残れない!GMS衣料品は自前開発を決意せよ