勝ち組はSPAではなく「無在庫型」へ 2024年のアパレル、5つの受け入れ難い真実とは
真実2「アパレルの勝者はSPAにあらず、勝者はマッチング事業」
私は先週号で、「今市場を席巻している勝ち組アパレルは一部を除いてノンSPA、つまり、SPAではないビジネスモデル」であることを説いた。理由は2つある。
日本のアパレル産業はユニクロを除いて海外で成功している企業はほとんどいない、完全な内需型産業だ。そして、日本国内には2種類の購買層が存在する。一つは、30年間全く給与が上がらず、将来に対して希望がもてない、人口現象と老齢化がとまらない「日本人市場」。もう一つは、超低金利と相まって円安が加速し外国人からみて、ブランドものや高価な商品が格安となっており、かつジャパンクオリティで買えるため外国人の爆買いが増えている「インバウンド市場」だ。
今、日本では裸で生活している人はいないわけだから、企業はこうした2種類の購買層が着る服を巡って「奪い合う」ことになる。決して、市場規模が拡大しているわけではない。このことから私は、「M&Aによる産業再編が起きる」と予言したわけだが、2023年はベインキャピタルによるマッシュスタイルホールディングスへの2000億円規模の投資から、三菱商事ファッションの一部事業を無印良品へ譲渡するなど、驚くようなM&Aがあちこちで起きた。私の予想通りになったと言える。百貨店の業績はインバウンドが支え、日本人は中華製の低価格アパレルを着る。こんな時代に二極化してきたわけだ。これが理由の1つ目である。
こうした状況の中、「在庫」が「売上を生み出す宝」から「時限爆弾」へと変貌する。全体のパイが増えていない(むしろ縮小している)のだから、誰かが勝てば、誰かは必ずビジネスを奪われる。こうして、余剰在庫が生まれ、「宝」が「爆弾」に変わるわけだ。
以下のチャートをみてもらいたい。
これは、市場が毎年1.9%ずつ縮小していく中で、①アパレル業界が昨対比で5%の成長を意図して在庫を積む場合(図表左)、および-5%で在庫を減らしてゆく場合の利益率の変化(図表右)を計算した表だ。
おどろくことに昨対比-5%で在庫を投入する方が、利益額も率も向上するのである。つまり、縮小する経営環境では、みなが成長を意図するため、全体の利益率が低下するのだ。これが、もうひとつの理由だ。
SPA企業は、必ず在庫が発生する。しかし、小売に徹して帳合取引(工場資産の在庫を受注と同時に仕入と売上を上げる)を増やせば理論上在庫はゼロとなる。有力韓国企業はこの在庫レスモデルを採用し、キャッシュコンバージョンサイクル(CCC)を極めて短くしている。これは日本におけるZOZOも同様である(ただしZOZOは杓子定規にCCCを計算すると100日を超えるので使う数字を実際のビジネス形態に沿ったものに変える必要がある)。一方、SPAだと全在庫を買い取らねばならぬため、縮小する市場では「爆弾」を抱えている可能性も否めないのである。
「我々はアパレルではないテック企業だ」
これは、中国のモンスター企業、シーインの言葉だ。彼らは預託在庫で工場企画の商品を自社のモールに掲載し、受注がはいれば一気に仕入と売上を同時に立てる。決して、SPAで在庫をもっているわけではない。売りたい商品と買いたい顧客をマッチングさせているに過ぎない。今、アパレル業界で勝っているのはテックを利用したノンSPA、具体的には「無在庫モデル」なのである。
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