勝ち組はSPAではなく「無在庫型」へ 2024年のアパレル、5つの受け入れ難い真実とは
真実2「アパレルの勝者はSPAにあらず、勝者はマッチング事業」
![triocean/istock](https://diamond-rm.net/wp-content/uploads/2023/12/iStock-1223548020.jpg)
私は先週号で、「今市場を席巻している勝ち組アパレルは一部を除いてノンSPA、つまり、SPAではないビジネスモデル」であることを説いた。理由は2つある。
日本のアパレル産業はユニクロを除いて海外で成功している企業はほとんどいない、完全な内需型産業だ。そして、日本国内には2種類の購買層が存在する。一つは、30年間全く給与が上がらず、将来に対して希望がもてない、人口現象と老齢化がとまらない「日本人市場」。もう一つは、超低金利と相まって円安が加速し外国人からみて、ブランドものや高価な商品が格安となっており、かつジャパンクオリティで買えるため外国人の爆買いが増えている「インバウンド市場」だ。
今、日本では裸で生活している人はいないわけだから、企業はこうした2種類の購買層が着る服を巡って「奪い合う」ことになる。決して、市場規模が拡大しているわけではない。このことから私は、「M&Aによる産業再編が起きる」と予言したわけだが、2023年はベインキャピタルによるマッシュスタイルホールディングスへの2000億円規模の投資から、三菱商事ファッションの一部事業を無印良品へ譲渡するなど、驚くようなM&Aがあちこちで起きた。私の予想通りになったと言える。百貨店の業績はインバウンドが支え、日本人は中華製の低価格アパレルを着る。こんな時代に二極化してきたわけだ。これが理由の1つ目である。
こうした状況の中、「在庫」が「売上を生み出す宝」から「時限爆弾」へと変貌する。全体のパイが増えていない(むしろ縮小している)のだから、誰かが勝てば、誰かは必ずビジネスを奪われる。こうして、余剰在庫が生まれ、「宝」が「爆弾」に変わるわけだ。
以下のチャートをみてもらいたい。
![図表 筆者作成](https://diamond-rm.net/wp-content/uploads/2023/12/6c9eb55df603dc92ff71ebaf6340ba51.png)
これは、市場が毎年1.9%ずつ縮小していく中で、①アパレル業界が昨対比で5%の成長を意図して在庫を積む場合(図表左)、および-5%で在庫を減らしてゆく場合の利益率の変化(図表右)を計算した表だ。
おどろくことに昨対比-5%で在庫を投入する方が、利益額も率も向上するのである。つまり、縮小する経営環境では、みなが成長を意図するため、全体の利益率が低下するのだ。これが、もうひとつの理由だ。
SPA企業は、必ず在庫が発生する。しかし、小売に徹して帳合取引(工場資産の在庫を受注と同時に仕入と売上を上げる)を増やせば理論上在庫はゼロとなる。有力韓国企業はこの在庫レスモデルを採用し、キャッシュコンバージョンサイクル(CCC)を極めて短くしている。これは日本におけるZOZOも同様である(ただしZOZOは杓子定規にCCCを計算すると100日を超えるので使う数字を実際のビジネス形態に沿ったものに変える必要がある)。一方、SPAだと全在庫を買い取らねばならぬため、縮小する市場では「爆弾」を抱えている可能性も否めないのである。
「我々はアパレルではないテック企業だ」
これは、中国のモンスター企業、シーインの言葉だ。彼らは預託在庫で工場企画の商品を自社のモールに掲載し、受注がはいれば一気に仕入と売上を同時に立てる。決して、SPAで在庫をもっているわけではない。売りたい商品と買いたい顧客をマッチングさせているに過ぎない。今、アパレル業界で勝っているのはテックを利用したノンSPA、具体的には「無在庫モデル」なのである。
河合拓氏の新刊、大好評発売中!
「知らなきゃいけないアパレルの話 ユニクロ、ZARA、シーイン新3極時代がくる!」
話題騒然のシーインの強さの秘密を解き明かす!!なぜ多くのアパレルは青色吐息でユニクロだけが盤石の世界一であり続けるのか!?誰も書かなかった不都合な真実と逆転戦略を明かす、新時代の羅針盤!
河合拓のアパレル改造論2024 の新着記事
-
2024/07/16
ユニクロ式多頻度・小幅値下げとシーズン末大セール、どちらが得か -
2024/07/09
あなたの会社も要注意!「善意の行動」が仕組みを破壊するメカニズム -
2024/07/02
日本人が大好きな衣料品セール 安く買うのが難しくなる理由とは -
2024/06/25
「パリコレ」にアパレル業界人が行かなくなった理由 -
2024/06/19
インバウンドで最高益続出!日本人が知らない「百貨店の価値」とは -
2024/06/11
日本人の服がこの10年で「ペラペラ」になった本当の理由
この連載の一覧はこちら [29記事]
![河合拓のアパレル改造論2024](https://diamond-rm.imgix.net/wp-content/uploads/2024/02/kawai_2024_main-1.jpg?auto=format%2Ccompress&ixlib=php-3.3.0&s=0b125f4dd28306e2c3d972cfce4c4d31)
ファーストリテイリング(ユニクロ),しまむらの記事ランキング
- 2024-07-12値下げ率大きいユニクロと値下げ率小さいしまむら どちらが高収益?
- 2024-06-20店舗回帰で変貌!OMOが帰着する「ローカルロジスティクス」とは
- 2024-01-02勝ち組はSPAではなく「無在庫型」へ 2024年のアパレル、5つの受け入れ難い真実とは
- 2021-03-05ビジネスは「一勝九敗」 ファーストリテイリングを世界的大企業に導いた“柳井哲学”
- 2021-05-04大丸、三越伊勢丹…誰も語れない百貨店分析 政府の施策が百貨店を殺す「本質的理由」
- 2024-06-29ファストリ12 兆円越え!上場小売業時価総額&ROA ランキング2024
- 2024-01-09ユニクロに負けずに利益を上げる!アパレル2024年「5つの論点」解決策とは
- 2021-05-18全産業中ワースト2位の不都合な真実、アパレル業界の環境破壊と人権問題を解決する方法
- 2023-11-07いまや日本ブランドを超越!国潮ブームでも「ユニクロ」だけ中国で好調な理由とは
- 2023-11-14GMS衣料のジレンマと真実!イトーヨーカ堂アパレル完全撤退の必然とは
関連記事ランキング
- 2024-06-25「パリコレ」にアパレル業界人が行かなくなった理由
- 2024-06-11日本人の服がこの10年で「ペラペラ」になった本当の理由
- 2024-06-19インバウンドで最高益続出!日本人が知らない「百貨店の価値」とは
- 2024-07-02日本人が大好きな衣料品セール 安く買うのが難しくなる理由とは
- 2024-06-04定番はユニクロ、ファッション品はシーイン…どうなる日本のアパレル
- 2024-07-09あなたの会社も要注意!「善意の行動」が仕組みを破壊するメカニズム
- 2023-01-06SHEIN TOKYO「売らない店」現地レポート!担当者が明かす、低価格3つの理由とは
- 2024-07-12値下げ率大きいユニクロと値下げ率小さいしまむら どちらが高収益?
- 2024-06-24業態別 主要店舗月次実績=2024年5月度
- 2024-06-20店舗回帰で変貌!OMOが帰着する「ローカルロジスティクス」とは
関連キーワードの記事を探す
値下げ率大きいユニクロと値下げ率小さいしまむら どちらが高収益?
ファストリ12 兆円越え!上場小売業時価総額&ROA ランキング2024
ユニクロ式多頻度・小幅値下げとシーズン末大セール、どちらが得か
値下げ率大きいユニクロと値下げ率小さいしまむら どちらが高収益?
ファストリ12 兆円越え!上場小売業時価総額&ROA ランキング2024
店舗回帰で変貌!OMOが帰着する「ローカルロジスティクス」とは