最強ECシーインが米国でフォーエバー21と資本提携 その狙いと日本への影響とは
日本は、バーバリーブラックレーベルの二の舞になるな
ここで、私が最も心配するのは、すでに(まったく違う価値観で)見切り発車している日本市場でのアダストリアが日本で展開するフォーエバー21である。当然、これだけの話だ。サブライセンシーとはいえアダストリアにも通達は来ていたはずである。
アダストリアには、「ファストファッション」=「環境破壊」という公式がアプリオリ(疑うべきでない前提)に組み込まれているのではないかと感じることがある。ファストファッションというのは、消費者側の着こなしの問題であり、それを安価に提供する企業側によるなんらかの力が働いているわけではない。
だから、フランスのように「超スーパーブランドを買って(というところがすでに浮世離れしていると私は思うが)、それを直して使え」と、まるで高額品を買うことに合理性を持たせる理屈として、SDGsを使っている理屈に賛同できないだけだ。
今年の猛暑を考えれば、AIが人類を殺す前に地球が我々人類を許さないだろう。すでにその兆候は現れており、世界的なウイルスの流行(高度に発展したロジスティクスのトレードオフともいえる)や世界各地で起きている山火事などだ。先日も終戦記念日のテレビをみていたら、昭和20年終戦の夏、焼け跡の日本で暮らすのはさぞかし辛かっただろうと思ったが、なんと気温だけでいえば26~27度だったという。一方でいまは、夏の甲子園で暑さ対策からナイターにする案も出ているという。地球はまさに沸騰しており、恐ろしい話だ。
その意味では、個人的にはアダストリアの新生フォーエバー 21を応援したい。同時に、そのバリューチェーンはデジタル技術により、物理距離はどんどん短縮化され、中国の付加価値としてやがてLDP (仕向国指定地出荷)が普通になり、国をまたいで、B/L (国際物流の有価証券)の代わりに出荷先の検収書ベースで決済は完了(現に、今でも交互計算といって、少額であれば国際間決済でも相殺が認められている)するため、港で商社がコンテナを立てるということはなくなるだろう。
これは、消費国が日本だけだったからできあがったいびつなサプライチェーンであり、合理化という意味ではなんの合理性もない。
また、ファストファッションについていえば、たとえ500円や1000円の商品でも、気に入れば3年でも4年でも着れば良いのではないかと私は主張したい。過去、私は「在庫税」という、やや過激な提言をおこなったが、産業界はもはや絶えられない状況に陥っているように思う。一見最高益を更新しているように見える日本のアパレル企業だが、ブランドの老体化と国(消費者)の老体化がシンクロしているだけで、やがて消費市場は縮小してゆく。
私は、このアライアンスが拡大し世界のフォーエバー21の店舗とシーインのEコマースとノウハウが合致すれば、シーインの業績拡大に寄与するだけでなく、その謎のベールが明かされ、同社への正しい理解が進むと思う。「少量」とはいえ、シーインが自社株を外に開放したわけだから、すくなくとも一定数の人間は、その実態を数字で見ることができるようになった。また、IR活動も盛んになってきているし、日本はじめテストケースと思われる実験もあちこちで始まった。幾度も上場か取りやめかのニュースを繰り返してきた同社も、いよいよ世界一を視野に入れた優等生ぶりを発揮し、尊敬されるアパレル企業になるのではないかと思う。
いずれにせよ、こうしたシナリオの結果、海外旅行で買うフォーエバー21と日本で買うフォーエバー21が違う状態となり、過去三陽商会と英・本国バーバリーで争った中国市場での覇権争い、オンワードのラルフローレンと本国ラルフローレンのような状況に陥る可能性があり、これは私が恐れているシナリオである。フォーエバー21のブランドを保有するオーセンティック・ブランズが戦略として、日本を含め各地のパートナーにライセンスを付与し、各国のやり方にあったビジネスを展開させているわけだが、それでも日本だけがあまりに特別(特殊)だと、このようなことが起きるのはすでに歴史が証明しているわけだ。
アダストリアには、「自分たちが考えるサステナブルファッションはこうだ」というメッセージを世界に発信し、例え、売上で劣位でも「xxスコア(サステナブル度を示す指数など)」ではこちらのほうが上だ、ぐらいの説明を投資家に発信し世界のライセンスブランドのスタンダードになっていただきたい。アダストリアの壮大なチャレンジを、私は日本人として応援してゆきたい。
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プロフィール
河合 拓(経営コンサルタント)
株式会社FRI & Company ltd..代表(2023年8月1日に社名を河合拓コンサルティング株式会社より変更)Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。最近ではAI企業、金管楽器メーカー、中国企業などのスタートアップ企業のIPO支援などアパレル産業以外にクライアントは広がっている。座右の銘は生涯現役。現在は慈悲で大学院で経営学の、独学で英語の学び直しを行っている。
著作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送サテライトTV」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議にたびたび出席し産業政策を提出。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/
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