16号線外縁部の“覇者”ヤオコーが、SPA推進でねらう「天下布武」
16号線内側では「あの企業」と競り合うことに……
ヤオコーがめざす新しい市場である16号線内側マーケットで、最も手強いライバルとなるのは、オーケー、ロピア(神奈川県)といった徹底的な価格訴求型のスーパーであろう。
とくにオーケーは営業収益5250億円(2022年3月期実績)で、同エリアの食品スーパーで最大クラスの基盤を構築、16号線内側でドミナントを形成しており、顧客満足度調査(日本生産性本部実施)で12年連続でトップを獲得するなど消費者の支持も厚い(図表④)。
収益力、売場効率、1店舗当たり売上高など、食品スーパーの競争力を示す指標でも業界トップクラスを誇るオーケーは、店舗の競争力では“実質業界最強”ともいえ、この牙城を崩すことは簡単なことではないだろう。ただ、ヤオコーの都市型店舗が現在の生鮮、総菜の商品力と品揃えを維持して乗り込むのなら、勝機は十分ある。両社の強みが異なるため、棲み分けることが可能だからだ。
オーケーの集客力の源泉は、加工食品、日配、雑貨等のEDLP(エブリデイ・ロープライス)が消費者に認知されているということにある。「オーケーに行けば損はしない」という信頼のもと、お客は生鮮食品や総菜をついで買いしていくため、高い収益をあげることができる。
それに対して、ヤオコーは生鮮、総菜における価値を訴求してきたわけだが、その実力は郊外において価格訴求型の競合を押えてトップシェアを獲得してきたことが証明している。16号線の内側は外側に比べて所得水準も高いことを考えると、ヤオコーの価値訴求に共感する消費者の割合はさらに高くなることが容易に想像できる。郊外でベルクと競り合いながら共に成長してきたヤオコーは、都市部でもオーケーと市場を分割する存在になりうる。
2022年3月期まで33期連続で増収増益という驚異的な実績を残してきたヤオコーは、2023年3月期上半期決算で増収ながらも減益となった。通期業績予想を増収増益のまま維持しているが、人件費、水道光熱費の高騰という不可避のコスト増がさらに進んでいる状況下、連続記録の達成については危ぶむ声もある。
だが、そんな連続記録は、本質的にはどうでもいいことのように思えてしまう。そんなことより、ヤオコーSPA推進部がその目的を達成し、原則センター供給型の都市型フォーマットを支えるインフラを完成させるか否かが重要だろう。それによって、今後の業界の未来図さえ、大きく変わることになるからだ。
人手不足に対応した省人化で生産性の向上を実現したうえで、さらに豊かな食生活を日本全国に提案できる企業が実現したとき、食品スーパー業界は、インストア加工という非効率の軛から解放され、真のチェーンストアとしての歴史を刻むことになるのである。
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