11月12日、私のカレンダーには太文字でマークがされていた。ユニクロを展開するファーストリテイリングが放つ、本格プレミアムブランド「 +J」の最終販売日だ。
書籍では、同社を仮想敵国と見なし「ユニクロに勝つための方法を考えよ」と発破を掛けていた私だが、告白すれば私は無類のユニクラーであり、その中でも+Jは私の知る限り世界で最もコスパが高いプレミアム・ブランドである。しかし、この+Jは謎が多く、今回の同社の販売手法を見ても、合理性と論理性の塊である組織とは思えぬ謎だらけだ。この+Jについて、分析してみた。なお本稿は、私の推測が多分に入っていることをご留意頂きたい。
奪い合いとなった20年秋冬
そもそも+Jとは、いうまでもなくドイツのデザイナー、ジル・サンダーがデザインしたユニクロの服である。+Jは2011年にジルサンダーとユニクロのデザイン監修コンサルティング契約終了により一度は消えて無くなった。
元々、ミニマリズムの極致とも言えるジル・サンダーのデザインはベーシック衣料を中心軸におくユニクロと相性がよく、その名の通り +J (ジルサンダーのデザインエッセンスをプラスする)という意味で命名されたのだろう。
コロナ禍で衣料品不振が叫ばれるなか、+Jは2020年秋に突然復活、激しい争奪戦になるほどの人気ぶりだった。私はウェブで購入しようとしていたのだが、早朝に同社ウエブページを開けた瞬間サーバがダウンしていたほどの盛況ぶりだった。当時、
ハイテク技術と超有能人材の塊のような企業である。春夏物の争奪戦がこうなることは当然予想していたろう。
宝石のような衣料品の塊、2021年コレクション
私が、ファッションデザインについて、語ることを避けてきたのには理由がある。それは、私自身が感覚的に「かわいい」「格好良い」
*編集部注:各種報道によると、2021秋冬シーズンをもって休止
素材や縫製などは一級品ばかりだ。私は生産現場で実務をしてきたから商品の良し悪しは分かると思っ
加えて、夏とは異なり欠品らしき商品がないようだ。
一昔前なら、「セールに出すぐらいなら全商品店頭から引いてしまい一切売るな」といいきることも可能だったが、今は、SDGsの時代だ。ファーストリテイリングも「消費者が必要な商品を必要な量だけ作る」と公言したことは記憶に新しい。であるならば当然、売れ残り商品は、値下げされてゆくだろうと思うからだ。
服好きの私とて、2枚買うのがやっと。それほど+Jは高価だった。実質所得が先進国の中で最も低くなり、お金がなくて大学進学を諦める人もまた増えているという時代に、セーター1万5000円、カシミヤ一択(Mensの場合)というのは、ユニクロが遠くに行ってしまったように思いさみしく感じるのだ。
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+Jとは一体、何だったのか?
一体、+Jとは何だったのか。あれほどの完成度の高いブランドには不釣り合いの一連のアップダ
間違えて頂きたくないのは、それでも、ユニクロが作り上げたサプライチェーン、そして、デジタル活用をしたさまざまな内部効率化ツールや大型店舗による世界規模のプレゼンスの出し方、さらに、幾度も諦めず世界でチャレンジする勇気や飽和する日本社会で、一点単価を上げるための施策としての有名ブランド、アニメなどとのコラボ。ユニクロパークなど、体験価値の提供など、彼らがつくった衣料品を中心軸としたLife eco-systemは盤石であり、+Jが最終章を迎えようと、
むしろ、彼らの本当の戦いは、これからのESG経営にあると私は思う。これまで、より大きく、そして、より多くの利益を生めばよしとされてきた一直線のレールから、世界からいきなり「優等生としての模範を見せよ」と言われ、気づけばZARA、H&Mなどは、ファストファッションでありながら、SDGsの世界観を独自の哲学で体現してきている。
圧倒的コスパで競合他社を凌駕するビジネスモデルを作り上げた同社が、どのように世界と人類の平和、そして私たちが住む環境に貢献するか? ライフウエアというコンセプトから、私の目にはまだ「それ」は見えにくいが、いまや世界に誇れる日本企業である同社からますます目が離せない。
プロフィール
河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)