アパレル業界 待ったなしのSDGs対応とリスクまみれの産業政策

河合 拓 (株式会社FRI & Company ltd..代表)
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落とし所は、AI需要予測導入というハコモノ投資?

 私には、“あってはならない”落とし所がみえる。それは、AI需要予測によって過剰生産を制御しましょう、という話となり、我々の血税が、デジタル企業の「ハコモノ」に流れることだ。

  実は先日、Zホールディングスが、学生向けのビジネスコンテストを開催。同社が持つアパレルプラットフォームZOZOを用い余剰在庫削減をDXを用いて解決せよ、というお題がでたそうだ。

 私は学生たちに「AI需要予測で余剰在庫がなくなると提案すれば勝ち残るよ。ただし、それは全く本質的ではないが」とアドバイスしたばかりだ。

 そうではなく、「本来、Zホールディングスがすべきことは、日本の金融市場がまともに機能していないのだから、LINEの投資機能とPayPayなどの仮想通貨を使ったクラウドファンディングを一般投資家から募る仕組みを作り、成長の踊り場にいるD2C企業に資金が回る仕組みをつくれば業界の役者が交代し日本から売れない余剰在庫は解決する」ことも説明した上で、どちらを選ぶかは、君たち次第だと言ったが、学生たちは「需要予測」を選んだようだ。落とし所が見える課題を出す方も出す方だが、有名になりたいのか信念のない若者も残念だ。

  かくのごとく、この問題は利権が絡み、効果の無い落とし所、つまり、デジタルベンダーにお金が流れる仕組みをつくることが見えているのだ。しかし、幾度も述べているように、日本の余剰在庫問題は的中率でなく総投入量の問題だ。環境省のホームページに、「国民が年間18点購入、企業の営業活動によって35~40億点が毎年投入されると書いているわけだから、もし、AIの需要予測で余剰在庫の問題が解決可能なら、例えば、私の家は4人家族なので衣料品の年間支出が4倍にならなければ論理的につじつまが合わない。こんなことがあり得るはずがない。

図表2
図表2

  総投入量の半分しか消費されないわけだから、論理的に考えれば、産業政策の論点は、需要を倍にするか供給を半分にするかいずれかだ。カーボンニュートラルを目指すのであれば、まず需給バランスを国家的に一致させ、その後に、プロパー消化率の向上だ、残品率だという順番で問題解決をすべきである。つまり、この問題は、残念だが、米国の数多くのアパレル企業が破綻したように、「なくなる企業はなくなる」ことによってしか解決しえないのである。激しいテクノロジーの進化と新型コロナウイルスとの共存の道を選択した日本は、大きく産業の構造的転換期を迎えているのだ。

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記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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