アパレル業界 待ったなしのSDGs対応とリスクまみれの産業政策
衣料品生産時の環境破壊に言及するも、「98%」を放置
環境省のホームページでは、毎年総投入量35~40億枚の半数、約20億枚が売れ残り、そのうち68%が焼却されているとしている。
しかし、再三述べているようにアパレル企業は残在庫を翌年度に「キャリー」し、損金処理をしている企業は上場企業を除きごくわずかだ。上場企業の中にも、損金ルールが存在せず3年も5年も残在庫をバランスシートに残している企業も存在する。加えていうなら、決算月は企業によってまちまちなので、例えば、12月末決算と2月末決算、3月末決算の企業が混在しているわけだから、年度によって綺麗に簿価ゼロになることなどあり得ない。仮に、残在庫が環境省のいうように約20億点とし、決算月、その他の理由でキャリーを10億点とするなら、この5年で50億点のデッドストックが国内に隠され、眠っていることになる。
アパレル業界は、過去、商社の南下政策により日本での生産は全投入量の2%になってしまった。逆に言えば、98%は海外生産だ。だから、私は日本政府が生産工程、染色材料、労働条件、工場の設備に対してガイドラインを持ち、定期的に環境デューディリジェンス(査察)を政府主導で行い、海外生産工場に認証制度をつけ合格した工場からの輸入に-5%の優遇輸入税制を適応する案を提言。同省の霞ヶ関にまで出向き解決策まで提示した。
私の政策が実現すれば、日本向けの海外生産工場は、CIF (生産原価に船賃と保険をつけた価格)に適応される8-15%の輸入関税を利食い(利益を増やす)できるので、工場の安全性確保(働きやすい環境整備含む)のための投資が可能だ。ラナプラザ倒壊事件で有名になったバングラデッシュなどは、輸出の80%が繊維製品なのだから、日本向け繊維製品の優遇税制が実現すれば、その経済効果は計り知れないだろう。
この産業政策は、出荷元であるバングラデッシュだけでなく荷受先である日本市場でもメリットは出る。例えば、百貨店向けの企画原価率は20%程度。5%の優遇税制を導入すれば、上代換算すると上代の25%、わかりやすく言えば、1万円の商品が7500円で販売可能となる(図1)。
生産拠点の98%が海外移転してしまった日本の繊維・アパレル産業のカーボンニュートラルを日本主導で実現する道は、この方法以外はあり得ない。加えていうなら、アパレル企業の残品率に対し、炭素税のような税金をかければ、私が提唱している二次流通市場の形成、および、リサイクルがいっそう進むことになる(8月24日の日経クロスメディアの記事で、この5年で二次流通市場は6000億を超える拡大をみせるという記事が掲載された)。今回のコンソーシアムには、日本の優良アパレルが名を連ねているが、製造工程で排出されるCO2や水の問題を提起しておきながら、海外の生産領域は放置されたままだ。たった2%しかない国内生産工場でカーボンニュートラル実現をめざしているのではないかと見える。これが、私がいう構造的欠陥だ。
国の立場からいえば、日本の生産拠点のために血税を使うということになるのだろうが、こうした杓子定規なやり方と考え方が産業界をダメにしたのではないか。たった2%の生産拠点の改革で、9兆円市場のアパレル産業のカーボンニュートラル実現が両立するはずがない。
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