2020年、新型コロナウイルス感染症拡大による巣ごもり消費やコミック「鬼滅の刃」「呪術廻戦」の大ヒットで、久しぶりに明るいニュースが多かった出版界。その一方で、書店閉店はとどまることなく、年数百店ペースで姿を消しているのが現状だ。そんななか、書店はこれまでの「本だけを売る小売業」ではなくなってきている。販売する商材や稼ぎ方も変化。既存の画一的なビジネスからの脱却をめざす書店チェーンの今を追う。第2回は、中京圏を中心に展開する郊外型書店の三洋堂書店。前回解説した丸善CHIホールディングスとはまた違った形で「複合型書店」の稼ぎ方を模索している。
21年3月期 増収大幅増益
三洋堂書店の屋号で展開する三洋堂ホールディングス(愛知県/加藤和裕社長)は愛知県24、岐阜県27と中京圏を中心に74店舗を展開する(2021年3月期)。店舗は幹線道路沿いの郊外(ロードサイド)やショッピングセンター内の出店が多く、1店舗あたりの売場面積は419坪程度。地方都市によくみられる駐車場付きの店舗で、地元住民が自動車での来店することが多い。「ブックバラエティストア」を掲げ、新刊と読者から買い取った古本も同じ店頭で扱っている。
直近の2021年3月期は、新型コロナ禍による巣ごもり消費で学習参考書や児童書の売上が急増。大ヒットコミック「鬼滅の刃」などの強力商品があり、売上高は前年比4・6%増の208億8500万円、営業利益は同319・2%増の6億3600万円と大幅増益。売上高営業利益率も前期の0・8%から3・0%と大きく改善している。業務効率化のためにセルフレジの導入も積極的にすすめ販管費を圧縮。既存店売上は通期でみても前年比12.7%増で、12カ月のうち前年比を下回ったのは2カ月のみと通期で好調を維持した。
そのような特需要因があったため、コロナ後を見据えた戦略が今後の生き残りに不可欠となるが、三洋堂が経営の核においているのが「複合化」だ。店舗開発や商材において積極的に「本以外」を取り入れていることにある。同社が扱う商品は書籍類だけでなく、文具・雑貨・食品、セルAV、TVゲーム、古本、レンタル、新規事業など多岐にわたる。決算短信、決算説明会資料でもこの部門別の内訳で開示している(下図参照)。
これらに力を入れる理由の一つに、レンタル事業の苦戦にある。アマゾンプライムやネットフリックスのような動画配信サービスがコロナ禍の巣ごもりを後押しに伸長。わざわざCDやDVDをレンタルするために書籍売場に隣接しているコーナーに行く、との動機が弱まっているのは、現在の複合型書店に共通する悩みだ。
三洋堂書店においてもレンタルは近年縮小の一途をたどる。近年の実績を振り返ると、19年3月期の売上は23億3200万円、20年3月期が20億4500万円、21年3月期が17億9800万円と右肩下がり。なお同業のトップカルチャー(新潟)が運営するTSUTAYAでも苦境は鮮明で、レンタル売場を徐々に縮小。そのスペースを別のテナントに貸し出す賃貸不動産に切り替えている。トップカルチャーでは、目的来店性の高い成城石井の高価格帯商品をコーナー化している店舗もある。
レンタルスペースをバローのフィットネスジムに鞍替え
三洋堂は17年7月、バローホールディングスの子会社アクトスとフランチャイズ契約を結び、会員制フィットネスジムを多店舗展開している。撤去したレンタルスペースをフィットネスに切り替え、新規店出店には書店に併設する形でつくっている。現在までに11店舗出店。前期はコロナ禍によって3密が回避されたことで、一時休業や会員数減で事業単体としては大きく落ち込んだが、コロナ以前は着実に出店があり売上を伸ばしていた。コロナ禍での営業はまだ苦戦が続きそうだが、フィットネス併設店舗の出店はこれからも続けていく方針だ。
最近力を入れているのが若者向けのトレーディングカード販売と対戦スペースの設置だ。これも不振のレンタルスペースを撤去して置き換えている。席数は60~90ほど設けている。直近では鳥居松店(愛知)でレンタル売場を撤去しこれまでの1坪から40坪にコーナーを拡げた。5月の新店、菰野店(三重)にも7月にトレカコーナーを設置する。とくに中高生の需要が強く、これからも拡充していく。
この4月からは古本事業もテコ入れし、雑誌や学習参考書も買い取り対象に加えた。再販制度によって定価が定められている新刊と異なり、自由な価格設定ができ、廉価に販売できることでお値打ち感にもつながっている。これまで新古書店チェーン、ブックオフの一部店舗では、同様の取り組みがあったが、さらなる粗利向上として期待される。加藤代表はレンタル不振のなかで代替する業態について「万能解決策はなさそう」と画一的な売場変更はしない方針だ。
クリック&コレクト特化の新業態を7月に出店!
本業の書籍、雑誌販売増にむけて新たな試みを始める。試金石となるのが、同社初となる小型店だ。7月に名古屋鉄道神宮前店(愛知)の改札前に出店する。店名は店舗コンセプトにちなみ、三洋堂書店ではなく「スマ本屋」名鉄神宮前店とした。スマホ閲覧に適した自社ウェブサイトと連携し、そこから注文した書籍を店頭で受け取る「クリック&コレクト」に特化した。売場面積は57坪予定。駐車場付きで400坪程度の郊外店が多い同社で、このサイズの小型店は初めてとなる。
一見、通常の駅ナカ書店と変わらない見た目だが、店頭受け取りは、事前に注文した来店者が店に訪れ、備えつけの専用棚から取り出して、セルフレジで会計する形を想定している。有人レジや補充スタッフは置く予定だが、書店員のレジ業務軽減となり、生産性向上も期待される。
この小型店出店には、ある理由がある。加藤代表は、これまでの同社の主流だった郊外で駐車場がとれる400~500坪クラスの店舗の出店地が、ドラックストア(DgS)やホームセンター、食品スーパーなど他業界の攻勢で確保しづらくなっていると指摘する。実際、同社の商勢圏でも、「ディスカウントドラッグ コスモス」など食品強化型DgSの出店意欲はとどまるところを知らない。その一方で、新型コロナ禍で飲食・外食店を中心に閉店が相次ぎ、小規模物件の空きが目立つなかで、「50~60坪ならばいくらでも出店ができる状況。多店舗展開できる可能性がある」と話した。
同社は2022年3月期に4店の出店を見込む。今期の新店出店に1億7200万円をかけ、その他投資と合わせると設備投資額は前期比1.5倍の4億7000万円と近年では最も多くなっている。4月のシャオ西尾店、5月に菰野店のいずれもインショップ型の300坪クラスに続けて、今後「スマ本屋」のような小型店の出店で次代の書店像を模索していく。
コロナ禍をへて事業環境や業界動向にあわせて変化させていくことがより必須となるなかで、三洋堂の事業変革は書店減が続く業界のなかでもひと際目立っている。