メニュー

激動の流通 #6 コロナ禍でも快進撃続けるユニクロの“隘路”

ファーストリテイリング(山口県)が展開する「ユニクロ」は現在、売上高世界3位のポジションにあるが、時価総額では、世界最大のカジュアル衣料チェーン「ZARA」を擁するスペインのインディテックス(Inditex)に肉薄している。しかもユニクロは、巨大市場である中国で絶大な存在感を持つ。絶好調にみえるユニクロに隘路はないのだろうか――。

2017年1月撮影(2020年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

コロナ禍直撃から一転、今期は業績V字回復か

 ファーストリテイリングの2020年8月期通期決算における売上収益(売上高に相当)は、2兆円を維持した。コロナ禍に伴う店舗の休業、消費者の外出自粛により消費が落ち込んだ影響により、19年8月期に比べると約12%の減収だった。

 しかし決算発表の場で、取締役上席執行役員CFOの岡崎健氏は、「中国大陸をはじめとするグレーターチャイナ事業が計画を上回るペースで推移したことから、直近の業績予想を大きく上回った」と振り返った。

 人口減少に歯止めがかからない国内は、アパレル市場が縮小に転じて、大きな成長は期待できない。そうした状況下、ファーストリテイリングは急拡大する中国市場を席巻しており、中国を中心とするグレーターチャイナをはじめ、海外事業の売上高がすでに国内を上回っている。

 とくに“稼ぎ頭”の中国では、コロナ禍からいち早く立ち直っており、21年8月期の業績予想においても売上収益は対前期比9.5%増の2兆2000億円、営業利益が同64.0%増の2450億円を見込むなど、コロナ禍が直撃した20年8月期から一点、V字回復を予想している。

なぜユニクロは中国で成功できたのか

 ユニクロのように、国内の大手小売が中国市場を攻略した事例は少ない。あるファッション専門紙の記者は「ユニクロの中国成功の一因は、マーケティングの成果」と指摘するが、もちろんそれも要因の1つだろう。

 その一方、あるアパレルメーカーの幹部は「1人の中国人の功績が大きいのではないか」とみる。その人物こそ、現在ファーストリテイリングのグループ上席執行役員でグレーターチャイナCEOを務める潘寧氏だ。

 潘氏は、日本国内の大学を卒業し、まだ中小企業だった頃のファーストリテイリング(ユニクロ)に入社。そして、中国の事情をよく知る1人として、中国事業を現在の規模にまで育て上げた。

 前出のアパレルメーカーの関係者は「潘氏がファストリの中国市場を軌道に乗せたといってもいいのではないか」とまで言う。潘氏に活躍の場を与えた柳井正会長兼社長の先見の明があったからこそとも言えよう。

欧米市場をどう攻略するか

 拡大が続く中国市場で一定の成功を収めたユニクロ。そんな同社に“隘路”があるとすれば、攻めあぐねている欧米市場だろう。

 世界のアパレル市場で1位の「ZARA」を展開するインディテックス、「H&M」を擁するエイチ・アンド・エム(H &M Hennes &Mauritz AB)が先行、行く手を阻まれているからだ。

 ユニクロの米国の店舗数は約50店にとどまっており、欧州もフランスが20数店を展開するのみ。国内のユニクロの店舗数が770店超、中国が710店超となっている現状を考えると、欧米の店舗は決して多いとはいえない。

 ある大手化粧品メーカー幹部は、「欧米人からみれば、アジア人がつくるファッションブランドだから」と述べる。「いくら品質や縫製が価格以上によくても、ファッションという嗜好性の強い分野において、ユニクロと欧米のブランドとの間には“越えられない壁”がある」(前出アパレルメーカー関係者)という指摘もある。

 ただ、2020年11月に発売した有名デザイナーのジル・サンダー(JIL SANDER)とのコラボ商品が大ヒットとなるなど、ファッション性の高い商品でユニクロは一定の成果をあげている。欧米ブランドとの間に立ちはだかる“見えない壁”は、すでになくなりつつあるのかもしれない。