売上高5240億ドル(約54兆5000億円:2019年度)、店舗数1万1361(2019年1月末)、ECの雄であるアマゾン・ドット・コムと死闘を繰り広げながら、25四半期連続で既存店舗を成長させる――。
世界最大の小売業であるウォルマートの強さの源泉とは何であろうか?
ウォルマート カルチャーの礎
店舗、出店、物流センター、トラック、コンピュータシステム、品揃え、商品開発、EDLP(エブリデイ・ロー・プライス)、人材育成プログラム、IT投資戦略への転換速度…どれも正解だろう。
ただ、こうした戦略をコピーして、異なる企業にペースト(貼り付け)したとしても、きっとウォルマートと同じようには成長できないはずだ。
ウォルマートには、これらを成功に転化することができる企業カルチャーがあるからだ。
新型コロナウイルス禍の中で、 2012年にダイヤモンド社から刊行された『ウォルマートの成功哲学 企業カルチャーの力』(訳:徳岡晃一郎/金山亮:1800円)を今一度読み直してみて、それが何であるのかを再確認した。
筆者は、ドン・ソーダクィスト。
1980年にウォルマートに入社した後、いくつかのポストを経て、1988年に副会長兼COO(最高執行責任者)に就任。その後、1999年に上級副会長に就いたエグゼクティブだ。
ウォルマートの企業カルチャーの礎というべきは、創業者であり、1992年に他界したサム・ウォルトンであることに違いない。
ドン・ソーダクィストは、サム・ウォルトンが将来を見通し、正確な「マクロ・ビジョン」を持っていたことに加え、いま目の前で起きている小さなこと、小さいがために他の人が気づかない些細なことを見逃さない才能が備わっていたと回顧する。
それについてはエピソードがある。
ある日、ドン・ソーダクィストとサム・ウォルトンは競合店舗の視察に出かける。
欠品だらけの棚や空き箱の散らばる通路、汚れた床、従業員不在…筆者は早々に「ひどい店」と判断してしまい、早々に店を後にした。
しかし、サム・ウォルトンなかなか戻って来なかった。
ドン・ソーダクィストとは、全く違う視点で同じ店舗を見ていたからだ。
たとえば、パンティー・ストッキングの棚だ。ドン・ソーダクィストが早々と最悪と決めつけ、ロクに見ることもしなかった棚をサムは「最高の売場だった」と称え、なんと、什器の製造元をメモしていた。
ウォルマートの3倍に当たる12フィートで展開していたエスニック化粧品売場からは、ブランドの供給元を調べていた。
企業文化の基礎となる 7つの価値観
ドン・ソーダクィストは、この時のショックと反省を踏まえ、「競合の店を訪れても、悪いところを探し回るのではなく、自分たちにとって勉強になることや、自分たちが参考に改善すべき点を探すようになった」と振り返る。
サム・ウォルトンの偉大さは、一代でウォルマートをつくりあげただけでなく、多くのアソシエイト(=従業員)とこうしたエピソードを積み重ねる中で、人を育て、自信を植えつけ、思想や信条の体系を打ち立て、永続可能な企業カルチャーを確立したことにある、とドン・ソーダクィストは断言する。
その企業カルチャーの基礎になっている価値観は、①誠実、②個人の尊重、③チームワーク、④コミュニケーション、⑤卓越性の追求、⑥自己責任、⑦信頼の7項目である。
そして7項目の価値観と相まって会社の中で人々の思考と行動パターンを決定づけるウォルマートの信条とは、
・私たちは、すべての人を尊重します
・私たちは、お客様のために尽くします
・私たちは、常に最高を目指します
という3点だ。
ウォルマートは、これらにどのように生命力を吹き込み、企業カルチャーとして力強く根付かせてきたのか?
実は、それこそがウォルマートの強さの本当の源泉だと思うのである。