ウィズコロナ時代のショッピングセンター経営10 アパレルと百貨店が生き残るための2つの戦略とは
百貨店はどう対応すべきか
そろそろこのテーマに解を求めたい。方法は2つである。
①ニッチとなること
スーツも百貨店も残念ながら利用者は減少する。しかし、必ず一定数の利用者はいる。スーツもオシャレな人は着るし、誰しも着るシチュエーションは必ずある。
しかし、その人の数も場の数も残念ながら過去に比べたら大きく減少していることは受け止めざるを得ない。
アパレル企業はこれまで、洋服が売れるか売れないか分からないけど欠品を無くすためにとにかく作り全国へ配送し売上を上げることに躍起になってきた。確かに売上が拡大すれば自ずと利益が着いてきた時代ではあった。
一説には年間28億着の衣服が供給されていると聞く。ナショナルチェーンと呼ばれるメーカーは、全国の百貨店やSCに多くの店舗を構え、国民全員を相手に洋服を売る典型的なマスマーケティング戦略を採ってきたわけだが、市場が縮小する中、その大量生産大量消費の公式は成り立つはずは無い。
したがって、今後は、ニーズのあるマーケットに絞りニッチマーケティングに発想を切り替えるしか無いのである(洋服を売りたければの話ではある)。
実際、オーダースーツに特化するなど、「スーツはニッチ」と割り切った一部スーツメーカーは売上を伸ばしている。ニッチマーケットでは数量が伸びない中でも、単価を上昇させることで利益を確保することは戦略の定石である。
百貨店も同様である。百貨店の利用者は減少している。百貨店には行かないと言う若者も多い。しかし、百貨店を愛し、百貨店を利用する顧客は少なからずいる(私もその一人)。
ただ、その数は少ない。だから、前掲の百貨店フロア構成のような巨艦型は不要となる。
そもそも、この図表1に示した百貨店フロアモデルは、市場の全包囲網(親子三世代)を狙ったマスマーケティングの典型である。
「今ある大きな建物をどうするんだ」という声も聞こえてくるがそこは工夫するしかない。そうしないと百貨店の無い県が増えるだけだ。
②ITを使うこと
もう1つの方法は、ITを駆使することだ。これまでのような外商や手厚い接客を続けたいのは分かる。オンライン接客など始めるところにそれをヒシヒシと感じる。
しかし、それが立ち行かなくなっていることは関係者であれば薄々気づいているはずである。
近年、伸びているDtoCのようにこれまで不可能だった顧客管理や採寸までテクノロジーを使って対応できる時代である。これを使わない手はない。
レジをお帳場と表示するのもいい。でもバックオフィスは近代化を急がないと本当に人件費倒れし、雇用すら守れない時がやってくるだろう。
今後は多くがニッチとなる時代
本稿では百貨店とスーツを題材にしたが、今後、ものすごい速度で人口が減りマーケットは大きく縮小する。したがってマスマーケティングで生き残るのは、わずかな企業やブランドだけになる。ユニクロやニトリがその代表例だろう。
人口が増加し、経済が膨張する時代ではマスマーケティングは機能しやすかった。
しかし、今、衰退しているほとんどの企業や商品やサービスは、この成長を背景にしたマスマーケティングをいまだ志向しているのではないかだろうか。
1990年代後半から大量に建設されたRSC(リージョナル型ショッピングセンター)も同様、この市場の縮小にどのように立ち向かうのか、巨体なだけに大きな問題となることは間違いない。
アフターコロナの時代に、大きく占有率を占めるプラットフォームとなるか、特定なニーズに特化したニッチ戦略を採るか、その選択が重要となる。
中途半端な事業規模で固定費を抱えるようなビジネスが一番危険なことがコロナ禍で明白となった。
ボリュームゾーンを狙ったマスマーケティングは終わり、固定費を下げて単価を上げた特定のマーケットを狙ったニッチ産業がさまざまな業界で主流になる日が来るのかもしれない。
西山貴仁
株式会社SC&パートナーズ 代表取締役
東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員、渋谷109鹿児島など新規開発を担当。2015年11月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。岡山理科大学非常勤講師、小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、宅地建物取引士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒、1961年生まれ。
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