#4 ユニー“中興の祖” 家田美智雄さん、社長としてユニーに復帰
人員を700人削減
本部移転に当たっては、人員を1800人から1100人へと700人削減した。
たとえば、これまでは会長・社長の周囲の部署は、秘書、広報、企画室など社員17人、パート社員1人の合計18人で構成されていた。これを社員3人、パート社員3人の6人に減員した。
「18人もいると本当の情報が何であるのかを誰も分からなくなってしまう。だから年中集まって会議をしなければいけない。でも社員を3人にしてしまうと会議のしようがない。立ち話ですんでしまうから」。
秘書もパート社員にした。すると、「秘書は企業のトップシークレットに触れるからパート社員では無理です」と猛反対された。
すぐさま反論した。「あんた、過去1年間で他人にしゃべってはならない機密って何かあったの?」。「小売業には特許とか秘密はほとんどない。店頭にすべて出してしまっているから」。「仮に俺が悪事を企んでいるなら箝口令を敷くけど、その時はあんたにも喋らんよ」。「機密が多い会社は悪いことをしているか、恥ずかしくて他人に言えないから隠しているだけ。全部オープンにしてしまえば何の問題もない」。
家田さんには揺るぎない信念があった。
経理財務部は社員75人とパート社員6人の81人を抱える大所帯だったが、これを社員15人、パート社員35人の50人にした。販売促進部は社員32人、パート社員3人の合計35人が在籍していたが社員5人、パート社員2人の7人体制になった。
人員大異動の実施を前に家田さんは「君たちにも家族があるだろうが、そちらには迷惑をかけたくない。だから人員整理をしない代わりに大幅な異動をさせてほしい」と訴えた。
そして削られた700人の本部社員は売上と利益の源泉である店舗に異動させた。
実は、家田さんは、名古屋駅前から稲沢への“都落ち”によって、大半の女性社員は退職するだろうとあきらめていた。ただ、ユーストアでの経験があったので、その時にはパート社員で充足しようと腹をくくった。ところが移転してみれば、全ての女性社員が文句ひとつ言うことなく異動してきた。
「ほんとのことを言うと、本部を移転する時には、かなりの退職者が出るだろうと予想していた。けれども、1人としてまったく辞めない。うちの社員は辞表の書き方を知らないのでは…と本気で思った」。
家田さん独特の褒め言葉だ。
この大型人事異動によって、多くの人を受け入れた店舗は人員過剰になった。しかし家田さんはそれでよしとした。
「本部に多く人員がいてもどうにもならないが、売場なら掃除や商品陳列ぐらいはできる。本部でいくら頭を抱えて悩んでも何の解決にもならない」からだ。
また人事異動に当たっては、自宅と職場の移動距離を縮める「職住接近」を重視した。従業員の通勤時間を削減し、身体的精神的負担を軽減するという効用はもちろん。交通費の削減にも大きく貢献した。さらには、“店格”というバカな価値基準もなくなる。
今流で言えば「働き方改革」そのものだ。
締めてみれば、この本部移転にともない、約25%に当たる2000人近い従業員を異動させている。
名古屋駅前本部にあった立派なデスクやチェアはすべて叩き売り、普通の事務机のみを残し、本部移転を実施した。地位も役職も関係なく、すべての従業員の机と椅子を同等の質素なものにした。設置するロッカーは腰以上の高さのものを禁止、机の上にモノを置くことも禁止とした。
ワンフロアの事務所なので、これによって家田さんの席から、全従業員が見渡せるようになった。
社員に対してまず話したのは、リストラ(事業再構築)の「3欠く」についてだ。リストラは1つに「義理を欠くもの」、2つに対外的に「恥をかくもの」、3つに「情けを欠くもの」ということだ。
例えば、組織再編で部の数を減らせば、部長が店長や副店長として降格になる。ここに情けをかけていては何もできない。
いろいろ文句を言ってくる社員には、「俺が一番欲しいのはカネか辞表だ」と言い放った。ただしこんな深刻な話でもユーモアは忘れない。
「カネand辞表じゃなくて、カネor辞表だよ」と。
ここで言うカネとは売上をつくって利益を上げる正攻法でも可、自分の資産を売却して差し出すのも可、法律に抵触しない範囲でゼニを持ってこいとぶった。
さらに、人員が余剰になったので新入社員の採用にも手を付けた。1993年4月には840人が入社しているが、翌年から数年間はゼロにした。
「最初のメッセージが強烈だと利くんですね」。家田さんは笑いながら振り返っている。
たとえば、ユニーの社長に就任してから迎えた1994年の春闘――。労働組合は「家田新体制に協力します。ベースアップは要求しません」と問わず語りで言ってきた。
「何を言っているんだ。そんなこと先に言われてしまったら、ベースダウンできないじゃないか」。本音なのか冗談なのか分からない。たぶんその両方なのだろうが、団体交渉の場はなごんだ。
家田さんが電光石火で対策を打つのを見た従業員の心境には大きな変化が表れた。
言行一致で言っていることの本質をコロコロ変えないリーダーに「ついていってみよう」という機運が生まれたのである。
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