「圧倒的な商品力の差」から目を背け、「売り方」だけで勝負しユニクロに惨敗する悲劇
デジタル投資を「売り方」だけに振り向けているから勝てない
おそらく、ユニクロとて、前述の交差比率と稼働率の融合課題については、最初から今のような完成形を生み出した分けではないだろう。彼らは、トレンドを追うのでなく、ベーシックで着回しの良い商品を扱うことで在庫問題を解決した。同時に、私が定義する「機能的価値」を前面に押し出し戦いを挑んだことが大きい。ビジネスが小さくても、ライトオフまでの期間が長ければ、在庫が残っても商品を売り切るまでビジネスを続けられる。このことに誰よりも早く気づいたことが大きかったのだと私は思う。
感覚を重視してトレンドを追いかける企業と、ものごとを論理的に考える企業の差ではないだろうか。もちろん、同社躍進の背景には、日本の悪化する社会環境も良い意味で追い風となったことを付加しておく。
いずれにせよ多くのアパレルは、「そもそも商品力の違いはどこからでてくるのか」という本質的な部分に目を向けず、店舗オペレーションやデジタル技術ばかりに注目している。つまり、「商品力」の強化でなく、「売り方」の強化だけで競争をしているのだ。
例えば、多くのITベンダーがCRM (顧客との長期的な関係を維持する経営手法)を強化するデジタルソリューションを出しているが、結局、ユニクロと比較して商品力に圧倒的な差があるのだから、消費者にとって不要なものを押しつける「押し売りシステム」となっている。実際、メディアを見ても「デジタル化」といえば、「売り方」だけにフォーカスし、「作り方」についての記述は皆無に等しい。
デジタル投資はその結果、数倍もユニクロとコスパが違う商品を、どのように売るかという「負け戦」に向けられているのである。
プロフィール
河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)
ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)