アパレルの離職率低下のためにすべきこと、やってはいけないこととは
ユニクロ式の人時生産性向上策を
他のアパレルが真似すると利益が激減する理由

さて、給与は誰が決めるのだろうか?
給与、つまり販売管理費に組み込まれている人件費が、売上との見合いでその会社、店の利益率を決定してしまう。平たく言えば、少ない人員で大きな売上を上げることができれば、その店舗の販管費「率」は大きく下がり、相対的に給与の原資である必要粗利高の水準が低くなる。つまり、店舗で働く人の給与を増やすための原資を確保しやすくなるわけだ。
しかし、他のアパレルがこうしたユニクロ式の人時生産性向上の取り組みを真似したらとんでもないことが起きる。
例えばセレクトショップ。セレクトショップは極めて専門性の高い販売員の接客によって売上が大きく左右される。下手に販売員の数を減らせば、その店の売上は下がり店舗貢献利益は下がってゆく。
私はかねがね、「アパレル」といって、ひとくくりにしてこの業界を語る愚を幾度も指摘してきた。例えば、MD(商品政策)でいえば、ユニクロのように商品力が強い企業は、店頭から販売員を減らし、「たたみ」や「売場への誘導・案内」に特化すればよい。思い切った言い方をすれば接客は不要だ。
これに対して、セレクトショップは接客が命である。セレクトしたインポート品は、毎年イタリアで2回開かれるPitti(イタリアの衣料品の国内展示会)で半年前に発注をかけたもので、原則的に追加発注はできない。一方ユニクロのような、SPA アパレルは追加発注が命で、全MDの30%程度を初期に市場に出し、初速をみながら残りの70%の色や数などの追加発注を決めてゆく。まったく違うシステムで動いているのである。
以上、まとめると、販売員の給与は入り口で大きくするのでなく、生涯年収で大きくし、それを声高に市場に伝えるべきだ。また、私が体験したような豪華な社宅などはムダ以外の何物でもなく、税金対策もあるが、基本は基本給を高くして、使い道は社員に任せるべきだ。最後に、給与は明確な目的もなく分配しても、従業員の成長、ひいては企業成長にはつながらないということを認識してほしい。ABEMA TV のひろゆきさんではないが、パチンコに消えて終わりだ。
最後に、優れた販売員は、顧客のいうことをただ「ハイハイ」と聞くのではなく、お客の話を肯定的に聞きつつ、「こんなものは、お客さまのスタイルに合いますよ」と、思いもよらぬコーディネートを提案できる稀有な人材だ。「めずらしいじゃない、でも似合うよ!」と隣の娘や妻からもべた褒めされるような、自分からは選ばないけれども、未知の自分に出会える素敵なコーディネートだ。
こんな体験をしながら、あるいは心待ちにしながら服を買うなんて楽しいショッピングではないか。この販売員こそ最大の資産だ。日本はもはや、米国をみならってデジタル化を進めても、これだけ細分化されたセグメントに一律の手法など存在しないことは書いたとおり。日本のアパレルは、日本式、そして自社に合ったやり方ですすめていこう。
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プロフィール

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。
著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/
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