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丸亀製麺がはなまるうどんに大きく差をつけた「逆張り戦略」とは

うどんで有名なチェーンといえば、トリドールホールディングス(東京都、以下トリドール)の「丸亀製麺」と、吉野家ホールディングス(同)傘下のはなまる(同)が運営する「はなまるうどん」が挙げられるだろう。いずれも2000年に立ち上げ、00年代に出店を加速させたが、今ではその事業規模に大きな差がついた。丸亀製麺が急速な成長を遂げた理由にフォーカスすることで、その理由に迫る。

成長スピードに格差、売上差は約4倍に

 昼食をさっと済ませたいときはうどん屋に行くことが多い。筆者はとくに事務所近隣にあるロードサイド型「イトーヨーカドー」のフードコート内の「はなまるうどん」によく行く。ただ、少し前に同店よりわずかに遠い幹線道路沿いへ「丸亀製麺」が出店してからは、時間があればそちらに行くことが増えた。だしの味わいが好みで、だしと薬味を好きなだけ入れられるなど、個人的に好ましい部分が多いためだ。

 丸亀製麺とはなまるうどんは、かつてはうどん界の2大ライバルといったイメージだったが、気がつけば丸亀製麺単体の売上高は、はなまるうどんの4倍程度の規模になっているようだ。この2つのブランドにどこで差がついたのだろうか。

 「丸亀製麺」を運営するのはトリドール傘下の丸亀製麺(東京都)。同社は創業当時、兵庫県加古川市で焼き鳥居酒屋「Yakitori Tori doll 3番館」を経営していた。なお、現在その焼き鳥居酒屋(現・とりどーる)の店舗数は8店ほどである。

 トリドールがその名を世に知らしめたのは、00年に始めた讃岐うどんの店「丸亀製麺」の大ヒットだ。現在(24年3月期)、同社のグループ連結の売上高は2319億円と、業界6位の大企業となっている(「ダイヤモンド・チェーンストア」24年7月1日号による)。そのうち1148億円を主力業態である丸亀製麺が占めている状況だ(図表①参照)。

24年3月期のグループ連結売上高は2319億円で丸亀製麺の売上1148億円、国内その他業態(「ラー麺ずんどう屋」「コナズ珈琲」など)284億円、海外売上886億円で構成されている。

 同社の業績は好調に推移している。コロナ禍をのぞけば増収基調であり、収益もおおむね拡大傾向だ(図表②参照)。うどん屋という昔からある業態で全国チェーンとして成功しているのは、この丸亀製麺のみといってもいいだろう。

 国内丸亀製麺事業とはなまるうどんの事業規模の推移を比べてみると、丸亀製麺の成長スピードが圧倒的に高いことがよくわかる(図表③参照)。11年3月期に売上高428億円だった丸亀製麺の売上高は24年3月期には1148億円と2.6倍以上に拡大。単純比較はできないが、利益面も営業利益63億円から事業利益183億円となっている。

 これに対して、はなまるうどんの11年2月期の売上高は153億円で、直近は292億円と1.9倍ほどになったものの、セグメント利益は7億円から17億円と低水準で推移している。この間に両者の存在感には大きな差がついた。その理由は、丸亀製麺が大型店を郊外ロードサイドで展開したためだ。

郊外立地で「無駄なスペース」を構える

 地代の安い郊外を主戦場とした丸亀製麺は、広い店舗の真ん中に大きな厨房を据え、その周りをぐるりと一周させる待ち行列の動線を引いた。入口には製麺機を置いて麺を作っており、その場でゆでて供給するという工程がすべて待ち行列から見えるように、厨房の周りは仕切りをしていない。行列が進む途中で取る天ぷらなどのトッピングについても、すべて工程が見えるようになっている。

 来店客は行列に並んでいる間、うどんがこねられ、切られ、ゆでられる様子や、揚げたてのてんぷらが並べられる様子を見せられるので、頼んだうどんが今そこで作られたことが否応なしにわかる。来店客は待たされているうちに「丸亀製麺のうどんは出来たてでおいしそう」という印象を刷り込まれるのである。

 大都市の繁華街に行けば、どこにでもそば屋やうどん屋はあるが、一般的には単価の低いそばやうどんで収益を上げるためには、店内にできるだけ席数を増やし、回転率を上げることが普通であろう。単価を安く設定するために立ち食いという業態もあるのはそのためだ。

 こうした基本から考えると、丸亀製麺の可視化された「広い厨房+製麺スペース」はムダである。実際に丸亀製麺の台頭以前は、こうした考え方のチェーンはなかった。丸亀製麺はその基本への“逆張り”で、あえてムダなスペースをつくって工程を見せることで、ほかのチェーンと明確な差別化をつくり出したのである。そして、この作戦は見事に成功し、丸亀製麺は何もなかった道端に繁盛店を生み出すビジネスモデルを確立したのである。

 この繁盛店モデルがロードサイド型で開発されたことは、丸亀製麺が大きく成長するための基盤となった。基本的にうどん店というものは、都市部では駅前・駅近、郊外では商業施設内といった、人のいる立地に出店している。

 図表④は、はなまるうどんの出店店舗(中部地方以東)の立地タイプを分類したものだ。「イオン」や「イトーヨーカドー」の施設内(フードコート含む)をはじめとする商業施設(SC)内が67%と3分の2を占めており、次いで駅回りが2割、ロードサイドは13%ほどしかない。さらにいうと、このロードサイドも商業施設の近隣だったり、工場集積地だったりと人流が見込まれるポイントがほとんどで、いわゆる“道端”にはほとんど出店していないのである。

 一方、丸亀製麺は最近でこそ商業施設内やフードコート、駅回りへ出店することが増えてきたが、かつては幹線道路沿いへの単独出店がメインだった。それでも前述の店舗の集客力によって繁盛店となり、次々と店舗が増えていった。このようにロードサイドに出店して採算が取れるなら、安い新規出店場所を簡単に見つけることができる。

 だからこそ、店舗数を飛躍的に伸ばすことが可能だったのである。商業施設、駅回りという限定的な場所から選ぶとなると、数が限られているうえに、異業種を含めた取り合いに勝たねば出店できない。これで成長スピードを競ったら、ロードサイド型が勝つことは明白だ。

「勝ち組」は地方の“道端”から生まれる

 現に、現在の小売業界における各業態のトップクラスのほとんどが、地方のロードサイドから発祥している。“道端”でも集客できるビジネスモデルを完成させたものが、地方郊外を席巻してから都市部を攻略し、やがて覇者となるのである。

 大手小売業で該当するのは、たとえば総合流通を展開するイオン(千葉県)、アパレルを手掛けるファーストリテイリング(山口県)、家電量販店のヤマダホールディングス(群馬県)、家具・インテリア雑貨店のニトリ(北海道)、ドラッグストアのコスモス薬品(宮崎県)、ホームセンターのカインズ(群馬県)、均一価格ショップの大創産業(広島県)など枚挙にいとまがない。

 外食チェーンにおいても、ロイヤルホールディングス(福岡県)は九州から、すかいらーくホールディングス(東京都)は都下からながらロードサイドで大きくなった。ゼンショーホールディングス(同)のすき家も郊外型展開で吉野家(同)を抜き去った。そもそもスーパーマーケット、ドラッグストア、ホームセンターなどの汎用品小売業は、地方予選を勝ち抜いた“地区代表戦”のような状況で、大半がロードサイドからの勝ち組で構成されている。地方の衰退、大都市への人口・機能の集中が問題視される昨今ではあるが、小売業、チェーンストアは地方でインキュベート(育成)されるものなのである。

 では、地方での人口減少が加速し、ますます衰退が懸念される状況にあって、これから新しいチェーンストアは地方で育たなくなるのだろうか。それは否である。少子化が進むベビー用品の世界でも、ロードサイドの西松屋チェーン(兵庫県)が成長を続けているのに対して、都市型の赤ちゃん本舗(大阪府)は停滞している。カフェの世界でも、ドトールコーヒー(東京)、サンマルクホールディングス(岡山県)、タリーズコーヒージャパン(東京都)といった都市型チェーンカフェを、郊外型のコメダ(愛知県)が抜きつつある。

 地方経済は縮小し、緩やかに衰退してはいるもののいきなり破綻したりはしない。それこそ右肩上がりを想定したチェーンストア理論が行き詰まりを見せるなか、右肩下がりを前提とした地方発チェーンが新しい解を見いだしているかもしれない。これができれば、世界に先駆けた新しいチェーンストアになる可能性すらある。今はまだ埋没して気づいていないだけできっと将来の成長チェーンが、地方でそのビジネスモデルを磨いているのだろう。