西友買収のトライアル、そのビジネスモデルの強さを小売ウォッチャーが解説!

中井 彰人 (株式会社nakaja labnakaja lab代表取締役/流通アナリスト)
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大手総合スーパーの西友(東京都/大久保恒夫社長)がディスカウントストア大手、トライアルホールディングス(福岡県/永田洋幸社長:以下、トライアル)の傘下に入ることが決まり、大きな話題となっている。小売ウオッチャーから見て、トライアルってどんな会社なのか、ちょこっとお伝えしようと思う。

米ウォルマートをコピーして成長軌道に

 米小売大手ウォルマート(Walmart)から西友の経営を引き継いだ米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)が、経営再建にめどをつけてエグジット(投資回収)することになり、イオン(千葉県/吉田昭夫社長)、パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(東京都/吉田直樹社長:以下、PPIH)、そしてトライアルなどが名乗りを上げていることは既に報じられていた。しかし正直、3番手的な見方もされていたトライアルが勝ち取ったということで、ニュース性も大きくなったように思われる。

 トライアルは2023年度売上高7179億円の国内では有数の小売業で、知る人ぞ知る存在ではあった。ただ九州地盤のチェーンでもあり、国内最大のマーケットである首都圏では店舗が少なく(たとえば東京都は0店、神奈川県は1店)、存在感はほとんどなかった。過半の店舗網を首都圏に展開している西友ユーザーからすれば「トライアルって何?」といった感想をお持ちであろう。

 トライアルを知るうえでキーワードとなるのが、世界最大の小売業であるウォルマートということになるだろう。1970年代に福岡から発祥したトライアルは、リサイクルショップとして開業し、家電量販店を展開した時期もあった。90年代にウォルマートをベンチマークした「トライアルスーパーセンター」という業態を確立してから成長軌道に乗り、九州一円を地盤として2000年代後半には売上高1000億円クラスの地場大手チェーンに成長している。

 以降、全国展開を進めながら、今の規模に至るのだが、その間24期連続増収を達成しながら、急速に大きくなっている(図表①参照)。

 なぜそこまで成長できたかと言えば、生活必需品(食品、生活雑貨、生活衣料など)を激安で提供することができるからということになるのだが、あまりピンとはこないかもしれない。安い店ならどの地域にもいろいろあるだろう。トライアルの特徴をあえて言うとすると、自社の利幅を限界まで薄くしても運営できるローコストなインフラ(基盤)を作ることに、大半のエネルギーを投入しているということかもしれない。

低粗利益でも収益が稼げる仕組みに投資

 これはもう少し説明がいるだろう。小売業のビジネスは、商品の売価から原価を引いた粗利益が一義的な収益となり、そこから運営にかかるコストを引いた残りが営業利益になることはご存じの通りである。成長していくためには、一般的に稼いだ利益の多くを投資して店舗を増やしていくことで、利益の源泉である売上を増やし、これを拡大再生産していくことが基本となる。

 営業利益を増やす方法は、単純に言って、粗利益を増やすか、コストを下げるかという二択がある。成功している小売業の多くは、粗利益率を上げるために集客商材と収益商材を組み合わせた商品構成になっている。

 たとえばディスカウントストア最大手として有名なPPIHの「ドン・キホーテ」の粗利益率は、購買頻度の高い食品に関しては22%弱しかないのだが、時計・ファッションは35%弱、スポーツ・レジャーは38%強、家電や日用雑貨でも30%近くは確保しつつ、トータルでは27%強の利益率となっている。(図表②参照)。

 こうした傾向はほかの企業でも見られ、利幅を削って来店してもらうための撒き餌が集客商材、ついでに買ってもらって利益をいただくことができるのが収益商材、この組み合わせが小売の収益の源泉となっているのが一般的なのだ。

 トライアルもこうした考え方はあるのだろうが、大きく異なるのは「コストのベース自体を下げてしまえば、安くできるじゃないか」という指向性が顕著だということだ。トライアルの粗利益率(連結ベースではあるが)はトータルで19.8%。これはPPIHと比べても利が薄いし、一般的な小売業の中でもかなり低い水準にとどめている。その中から、販管費率を17.5%まで下げることで、2.7%の営業利益率を稼ぐ。「薄い利幅でも収益が稼げるインフラさえあれば、持続的成長は可能」という考え方がトライアルの考える小売ビジネスの姿なのである。

 そしてこの会社に特徴的なのは、まださほど規模が大きくなく、収益力も高くない時代からなけなしの収益を店舗投資に充てるだけではなく、ぐっと我慢を続けてITや物流といったインフラ投資に振り向け続けたということだろう。手っ取り早く店舗を増やすほうが短期的利益は上がるのだが、そこを耐えて、愚直なまでにインフラ投資をやり続けた。そこが結果的に、西友を買収後、売上高1兆円企業になるまでのし上がる底力になったのだ。

 端折って説明したのでわかりにくいかもしれないが、彼らの「事業計画及び成長可能性」という公開資料があるので、併せて見ていただくと、何となく感じていただけると思う。

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記事執筆者

中井 彰人 / 株式会社nakaja lab nakaja lab代表取締役/流通アナリスト

みずほ銀行産業調査部シニアアナリスト(12年間)を経て、2016年より流通アナリストとして独立。

2018年3月、株式会社nakaja labを設立、代表取締役に就任、コンサル、執筆、講演等で活動中。

2020年9月Yahoo!ニュース公式コメンテーター就任(2022年よりオーサー兼任)。

主な著書「小売ビジネス」(クロスメディア・パブリッシング社)「図解即戦力 小売業界」(技術評論社)。現在、DCSオンライン他、月刊連載6本、及び、マスコミへの知見提供を実施中。東洋経済オンラインアワード2023(ニューウエイヴ賞)受賞。起業支援、地方創生支援もライフワークとしている。

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