丸亀製麺がはなまるうどんに大きく差をつけた「逆張り戦略」とは

中井 彰人 (株式会社nakaja labnakaja lab代表取締役/流通アナリスト)
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郊外立地で「無駄なスペース」を構える

 地代の安い郊外を主戦場とした丸亀製麺は、広い店舗の真ん中に大きな厨房を据え、その周りをぐるりと一周させる待ち行列の動線を引いた。入口には製麺機を置いて麺を作っており、その場でゆでて供給するという工程がすべて待ち行列から見えるように、厨房の周りは仕切りをしていない。行列が進む途中で取る天ぷらなどのトッピングについても、すべて工程が見えるようになっている。

 来店客は行列に並んでいる間、うどんがこねられ、切られ、ゆでられる様子や、揚げたてのてんぷらが並べられる様子を見せられるので、頼んだうどんが今そこで作られたことが否応なしにわかる。来店客は待たされているうちに「丸亀製麺のうどんは出来たてでおいしそう」という印象を刷り込まれるのである。

 大都市の繁華街に行けば、どこにでもそば屋やうどん屋はあるが、一般的には単価の低いそばやうどんで収益を上げるためには、店内にできるだけ席数を増やし、回転率を上げることが普通であろう。単価を安く設定するために立ち食いという業態もあるのはそのためだ。

 こうした基本から考えると、丸亀製麺の可視化された「広い厨房+製麺スペース」はムダである。実際に丸亀製麺の台頭以前は、こうした考え方のチェーンはなかった。丸亀製麺はその基本への“逆張り”で、あえてムダなスペースをつくって工程を見せることで、ほかのチェーンと明確な差別化をつくり出したのである。そして、この作戦は見事に成功し、丸亀製麺は何もなかった道端に繁盛店を生み出すビジネスモデルを確立したのである。

 この繁盛店モデルがロードサイド型で開発されたことは、丸亀製麺が大きく成長するための基盤となった。基本的にうどん店というものは、都市部では駅前・駅近、郊外では商業施設内といった、人のいる立地に出店している。

はなまるうどんの店舗立地

 図表④は、はなまるうどんの出店店舗(中部地方以東)の立地タイプを分類したものだ。「イオン」や「イトーヨーカドー」の施設内(フードコート含む)をはじめとする商業施設(SC)内が67%と3分の2を占めており、次いで駅回りが2割、ロードサイドは13%ほどしかない。さらにいうと、このロードサイドも商業施設の近隣だったり、工場集積地だったりと人流が見込まれるポイントがほとんどで、いわゆる“道端”にはほとんど出店していないのである。

 一方、丸亀製麺は最近でこそ商業施設内やフードコート、駅回りへ出店することが増えてきたが、かつては幹線道路沿いへの単独出店がメインだった。それでも前述の店舗の集客力によって繁盛店となり、次々と店舗が増えていった。このようにロードサイドに出店して採算が取れるなら、安い新規出店場所を簡単に見つけることができる。

 だからこそ、店舗数を飛躍的に伸ばすことが可能だったのである。商業施設、駅回りという限定的な場所から選ぶとなると、数が限られているうえに、異業種を含めた取り合いに勝たねば出店できない。これで成長スピードを競ったら、ロードサイド型が勝つことは明白だ。

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記事執筆者

中井 彰人 / 株式会社nakaja lab nakaja lab代表取締役/流通アナリスト
みずほ銀行産業調査部シニアアナリスト(12年間)を経て、2016年より流通アナリストとして独立。 2018年3月、株式会社nakaja labを設立、代表取締役に就任、コンサル、執筆、講演等で活動中。 2020年9月Yahoo!ニュース公式コメンテーター就任(2022年よりオーサー兼任)。 2021年8月、技術評論社より著書「図解即戦力 小売業界」発刊。現在、DCSオンライン他、月刊連載4本、及び、マスコミへの知見提供を実施中。起業支援、地方創生支援もライフワークとしている。

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