インバウンドで最高益続出!日本人が知らない「百貨店の価値」とは
これからの百貨店がとるべき成長戦略とは

私は、百貨店に対してその存在価値を明確化したうえで、いくつかの提言をしてきた。
百貨店はECとは仲が悪い
ECに人が期待するのは品揃えと価格の安さだからである。これに対して、百貨店は品目数は多いが、品揃えは壊滅的だ。百貨店の平場などを想像してもらいたい。次に、価格についてもECとうまく行かないのは、百貨店は安売りをしない。品揃えと安売りの両方がNGなのが百貨店なのである。だから、例えば、九州産地の特産品を、例えば、百貨店のECで買うことを考えれば、普通の人なら、そのテナントに楽天などを通じて直接アクセスして最安値で買うだろう。これが、ネットの買い方である。
百貨店のメタバースには戦略が見えない
メタバースに一時力を入れていた百貨店だが、これはクエスチョンマークだ。なぜなら、メタバースというのはECのリッチコンテンツ化(ECの写真が動画になり、メタバースになる)の先にあるもので、「ECであること」には変わらないからである。このような技術は、機能性と密接な関係がなければ絶対に広がらない。一時的に奇をてらっても、消費者に確固たる便益を与えなければ単なるおもちゃで飽きられてしまうのだ。メタバースは、オフィスになるか、過疎地帯の店舗になるかのいずれかである
百貨店の委託消化取引は百貨店の魅力を上げる
なにかと批判の多い百貨店の委託消化取引ではあるが、某大手百貨店の名バイヤーは、社内では、もっとも在庫を残した人間としても有名である。これは、何を意味するか。結局、余剰在庫のことを考えてMDを組んでも「売れ筋」か「ものまね」に収斂する。しかし、自分のお客様のためにMDを組めば、少々の残在庫は返品すれば良いので怖くない。従って、バイイングが顧客志向になってくるのだ。奥が狭く、幅が広い百貨店のMDを百貨店たらしめるために委託消化は重要な価値を与えてくれる。
百貨店の数が多すぎる
現在の百貨店協会に登録された百貨店の数は180前後だ。私が「ブランドで競争する技術」(ダイヤモンド社)を書いた時、百貨店は200あったので10%以上減った。
百貨店は、バブル時代、家族の休日の遊び場だった。百貨店で買い物をして屋上で昼食を食べて帰る。あるいは、夜食も百貨店ですますなど小さな贅沢をする憩いの場だった。また、百貨店は「あるべき場所」にあることが価値であった。百貨店は自店舗の周りに「城下町」をつくり、冠婚葬祭に登場し、「値引きをしない」百貨店は日本人の価値観にピッタリあっていたのだ。今回のインバウンド特需は百貨店の数が少なくなったわけではないが、インバウンド数が増えたため、相対的に百貨店と顧客のバランスがインバウンド数>百貨店となり、結局、百貨店が少なくなったのと同じ効果がでたのである
これが、百貨店の本質的競争力や存在価値である。ここをないがしろにして奇をてらっても百貨店は浮上しない。世界の百貨店は日本ほどラグジュアリーに特化していないし、百貨店はぜひこれらのポイントをしっかり見定め、再浮上してほしい。皮肉なのは、それが日本人でなくインバウンドという外国人の富裕層(日本人から見て)に根こそぎ百貨店の魅力がとられてしまったことかもしれない。
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プロフィール
株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。
著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/
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